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君たちはどう生きるかのKenzOasisのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.5
宮﨑駿さんの創造性のぶちまけのようであり、自我の晒けだしのようであり、悟りの表明のようでもあった。

燃える街を駆ける表現、水に沈んだ感覚がベッドに戻る表現、戸惑いや強い意志、喜びや怒りを静かに表す瞳の表現、羽ばたき、光。ジャムパンを頬張るときの一瞬の無邪気さ。リアルと寓話性の混じる生物たち。
ひとつひとつのクオリティが凄まじく、本当に美しかった。

物語に関しては、まあ良くわからない。勘繰ってしまう絶妙なタイミングの再婚、そっくりな顔。お腹に手を当てられた時の主人公の表情の加減の絶妙なこと!

眞人くんが「はい」と言うとき常に目が沈んでるのも無理はない。
現実は不条理な暴力と不幸、常に汚さを纏っているものだし、人間には必ず悪意がある。

最初に出会う墓場がベックリンの「死の島」という絵画にすごく似ているんだけど、ベックリン自身その絵のことを「夢の絵」と言っているという。

仮にこの絵画が元であるとするならば、創造性は地獄であり、夢想することは死に直結するとでも言いたいのかしら。

苦しいばかりなようで、栄養を与えれば何かが生まれる(わらわらが昇る)し、生まれようとするものを食い物にするやつらも現れる。
そして常にそんなやつらをぶちのめし、創造性に火をつけてくれるものもあり、それこそが母。(というか母性か。)「風立ちぬ」の堀越二郎が夢想した美しい飛行機が、一つも帰ってこなかった儚さに似たものを感じた。

小説「君たちはどう生きるか」は、コペル君がひょんなことから世界のつながりに気づき、客観的に物事を考えることと、小さな学びを繰り返すことの意義を知る。同時に損得とは違う、友だちのために勇気を出すことの偉大さを知る。

この映画は小説を「冒険活劇」として体現しており、母の遺した本を読んで、眞人は夏子さんを助けにいく。悪意はそのままで、ぶつかりながら青鷺と友だちになる。眞人は現実世界で同じようにぶつかりながらも友だちをつくり、懸命に生きようとするだろう。

宮﨑駿は子どもたちの、一種の逃げ道のためにたくさんの絵物語を届けてきた。今回の作品は、晩年に至り「“なぜ”子どもたちのためにたくさんの絵物語を描くのか」を形にしたのかなあ、と解釈している。
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