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オッペンハイマーのKenzOasisのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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「世界は破壊されたよ」

ようやく観ることができた。
原爆の父・オッペンハイマー博士の物語をノーランが描いた一本。
この映画にとっての真実は劇中のアインシュタインが語っている。罰を受けた後で表彰があり、寄ってくる人間は自分のために握手を求めるのだと。このシーン+エミリー・ブラントが握手を拒むところが1番好きです。

総じてキリアン・マーフィーの表情が最高だったし、ロバートダウニーJr.にも何度も「こいつ……!」と思わされた。

聴聞会でジーンとの関係を語るシーンで、ジーンの幻影とキティが睨み合うところも素晴らしかった。この場面にだけ、全編と関係のないネットリした憎悪が絡みつく感じ。凄まじい。

これまた複雑な作りとものすごい情報量だけど、名だたる名優たちの演技力と美麗な撮影、凄まじい音響によって、見応えばかりの3時間が提供されていた(頭の中で整理しながら観てたからかもしれない)。
ノーランはいろんな意味でものすごい映画を作ったと思う。

赤狩り、結論ありきのヤラセ、天才にのっかるくせになすりつける、都合の良すぎる手のひら返し。
つくづく、人間って恐ろしいほど知恵が働くし、偉業を成し遂げるんだけどあまりにも愚か者も多くて傲慢さで間違えてばかり。意味不明な生き物だ。

投下成功を喜ぶロスアラモスの人間による地鳴らしの中でのスピーチは、きっとオッペンハイマー博士の永遠の後悔になっていることだろう。

幸か不幸か、マンハッタン計画をやり遂げるにあたって、オッペンハイマー博士は才がありすぎた。根本の物理学の面だけでなく、どのように研究・開発するかまで巡らせて街を作るなんて、ただの物理学者に止まらない。

こういう天才を、必ず人間は潰したがる。私怨や傲慢な大義名分を利用するのが愚かなところ。この映画の多量の会話劇のなかにそれが詰まっている。

また本作の主軸となる「オッペンハイマー博士の罪悪感」から考えれば、当時の被害をもっと明確に見せなかったのは適切だったと感じた。ラジオで投下を知ったのち、被害の大きさを数字で知るだけで、彼の心はほとんど崩れていて直視できなかったのだから。

そして劇中にある、投下を決める会議の内容がすべて真実ではないだろうし、ここは慎重に受け止めなければならないな。

ただ広島市、長崎市の推計によれば、21万人以上が亡くなったとされている。原爆投下の是非について何故かいろんな意見があるが、個人的にはこの規模の死が「仕方ない」とか「それでいい」で片付けられたということが、正しかったわけがないとは思う。
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