MasayukiShimura

君たちはどう生きるかのMasayukiShimuraのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.6
引退したと思われた寿司屋の大将が10年ぶりにもう一度握るというから行ってみた。供されるのはお任せコースただ一択。どんなメニューかは事前に伝わってこないが、あの名物大将が久方ぶりに握る寿司ということでかなりのお客さんが足を運んでいるようである。

コースが始まって驚いた。寿司が運ばれてくるかと思いきや、目の前に並べられたのは一貫性のない料理ばかり。言ってみれば、前菜にクリームシチューが出てきたと思ったら、麺で冷やし中華が出てきてメインが鳥の唐揚げといったようなものである。確かに一品一品に大将のこだわりが感じられ、味わいとして文句がつけがたい。ただ、これがコース料理としてどうなのかと言われると正直どうやって評価すれば良いのかわからなくなってしまう。

そしてコースも最終盤に差し掛かったところで、ついに大将自慢の寿司が提供される。ようやくといった感のある握りに舌鼓みを打つのだが、その頃には口の中も胃の中も、すでにありとあらゆる食材がごたまぜになっており混沌の極みといった状態。膨れた腹を抱え、戸惑った表情を浮かべていると、清々しい表情を浮かべた大将は一言だけ「君たちはどう生きるか」と言い残して店の奥に去ってしまった。

いや、どう生きるかなんて知ったこっちゃないです。そもそも、さっき口の中に放り込まれたものがいったい何だったかすらよくわかってないんですから。

ただ、店を後にしたとき、これが大将の手料理を口にする最後の機会だったのかもしれないと思うと、なんだか胸が震わされてしまった。きっと寿司ばかり握ってきた大将は、この時ばっかりは自分の好きな料理を作りたいだけ作ったということなんだろう。まだ整理はつかないが、唯一無二のコースを食べたことは確かなわけで、その事実だけをもってしても満足できる経験だった。大将、本当に長い間ごちそうさまでした。

と同時に、この店の屋号は大将あってのものなのだと再確認させられた気分であった。このコースを別の誰かが提供したらボコボコに酷評されていたであろう。そういった意味では誰がこの店を継ぐことになっても、大将の記憶と共に語られることになるだろうから不幸を背負わされていると言えなくもないのではないか。

・・・というのが観賞後に感じた率直な思いでした。2回目見たら変わるかな、でも2回目は少し先でも良いかな・・・。
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