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君たちはどう生きるかのteaのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
4.1
《世界の積み木よりも、その中で“どう生きるか”》
『人間としてこの世に生きていることが、どれだけ意味のあることなのか、ーー自分の体験から出発して正直に考えてゆけ』

平和を願う一方、そのままじゃ居られない。それは戦時中だけでなく、いつの時代も、人間がつくる世界では必然のことかもしれない。日本にだってミサイルは近くまで飛んでくるし、自然災害も戦争もいつ起こるか分からない。
均衡を保とうとしながらも、ゆらゆら揺れる積み木。時には幻を映さないとやっていけないこの世界は、それほど繊細なバランスで成り立っているのかもしれない。

その中で大事なことは、幻に惑わされずに強く生きること。現実を受けいれて、立ち向かっていくこと。自分を傷つけず、人に嘘をつかず、真実に生きること。
主人公の親が子どもに真実の人「眞人」と名付けたように、それを子の世代からまた次の世代へと、繋いでいくこと。そしてその中で「少しずつでも」良い世界になったら良い。そんな思いが込められていると思った。

この「少しずつでも」というのもポイントに感じた。
美しい世界を創ろうとする人が自分を犠牲にして頑張っても無意味なのかもしれない。争いは絶えず、自然破壊は進んでいく。でもー。この世界には選ぶに値する価値がある。32番の扉を開いて、元の世界に戻りたいと願って行動した主人公。
まずは自分自身を大切にしてほしいというメッセージに感じた。命を大切に、自分が生まれ落ちたこの世界で、懸命に生きていってほしい。
生きねば。

2023年 33作目

p.s.(2023.08.24追記)
実は吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を未読の状態で映画を鑑賞しており、この夏休みを利用し文庫本で購入して読んだ。(私は子どもの頃から活字のものはゆっくり時間をかけてしんみりとしか読めないので、時間がかかった笑)
53ページに書いてあった文章に、ああ、これか宮崎駿監督が言いたかったことは、と納得した文があった。
『まして、人間としてこの世に生きていることが、どれだけ意味のあることなのか、それは、君が本当に人間らしく生きて見て、その間にしっくりと胸に感じとらなければならないことで、はたからは、どんなに偉い人をつれて来たって、とても教えこめるものじゃあない。(中略)だから、君もこれから、だんだんにそういう書物を読み、立派な人々の思想を学んでゆかなければいけないんだが、しかし、それにしても最後の鍵は、ーーコペル君、やっぱり君なのだ。君自身のほかにはいないのだ。君自身が生きて見て、そこで感じたさまざまな思いをもとにして、はじめて、そういう偉い人たちの言葉の真実も理解することが出来るのだ。数学や科学を学ぶように、ただ書物を読んで、それだけで知るというわけには、決していかない。
だから、こういう事についてまず肝心なことは、いつでも自分が本当に感じたことや真実心を動かされたことから出発して、その意味を考えてゆくことだと思う。君が何かしみじみと感じたり、心の底から思ったりしたことを、少しもゴマ化してはいけない。』

アオサギが喋り、ワラワラが舞い、崩れていく世界から逃げるように戻ってきて生死について考えさせられる経験をした少年が母の形見であるこの本を読む。自分が生きているこの世界は何なのか、そもそも生きるとは何なのか。それを追い続けていくことが生きるということなのかもしれない。

『ある時、ある所で、君がある感動を受けたという、繰りかえすことのない、ただ一度の経験の中に、その時だけにとどまらない意味のあることがわかって来る。それが、本当の君の思想というものだ。これは、むずかしい言葉でいいかえると、常に自分の体験から出発して正直に考えてゆけ、ということなんだが、このことは、コペル君!本当に大切なことなんだよ。』

『自分の体験から出発して正直に考えてゆけ』

きっとこの不思議な体験を通して、少年は生きる意味を、正直に考えただろう。
私も一生かけて考えていきたい。
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