喪黒もぐちゃん

君たちはどう生きるかの喪黒もぐちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

難解な部分が多く、解釈が難しいというか、人によってかなり意見が分かれそうな内容だが、個人的には非常に大好きな作品。

眞人は学校帰りに自分の頭に石をぶつけて血だらけにする。
一瞬、意味がわからなかったが、思春期ではだいたいの人が意味のわからないことをしてしまう。
学校の誰かを悪者に仕立て上げたいのか、学校に行かない理由を作りたかったのか、構ってほしくてやったのか、多分本人にもその理由はよくわかってなさそうだが、『悪意がある行為』であったことは自覚している。

夏子を探すため、謎の塔の床に吸い込まれて、『下の世界』にいってしまう。
この世界はなんだったのか。

黒くて実体のない人間のような存在達は船を漕ぎ、自分で殺生が出来ないからキリコが獲った大きな魚を恵んでもらう。
あの存在は結局のところ生きてるのか死んでるのかもよくわからなかったし、一応食べることは必要なんだと思った。

眞人がその大きな魚を捌くとき、誤って内臓を外に漏らしてしまって、キリコが「あーあ、内臓はワラワラが飛んでいくのに必要なんだよ」と言ったとき、妊婦が鉄分不足を補う為にレバーをたくさん食べることを思い出し、ここは子宮内の胎内なのか?とも思ったり。

ワラワラという可愛い生き物が夜に集団でDNAの螺旋構造状に『上』に飛んでいく様から、この世界は人間の体内の細胞そのものを表しているようにも感じられる。

その飛んでいくワラワラを捕食するペリカンたち。後に、夜中にベランダで物音がして眞人が様子を見にいくと瀕死のペリカンがいる。
昔は空高く優雅に飛んでいたが、餌が少なくなり、仕方なくワラワラを食べることになった。最近生まれたペリカンは空高く飛ぶことすら知らない奴もいる。
老いたペリカンは諦めたように果てていく。
ここは地獄だと悟る。

青鷺と一緒に夏子を探しにいく眞人。

途中で邪魔をしてくるインコはなんだったのか。

とある産屋?と呼ばれるカーテンが閉じられた部屋に眞人が入っていくと夏子が寝ていた。
次第に天井から吊り下げられたベッドメリーのような紙の束が2人を攻撃するように激しく回り、夏子も眞人に向かって「あんたなんか大嫌いだ!」と言い放つ。
この部屋、ここに何故夏子がいたのか。
そして何故あんなに怒っていたのか。
悪阻の女性は人によっては酷くメンタルを病んでしまうが、これを表しているかは微妙なところ。

大伯父様は『悪意のない』13個の石を途方もない努力で見つけ出した。
大伯父様は眞人にこの役目を受け継いで欲しいと頼む。
眞人は自分の『悪意』を告白する。
頭の傷は自分でつけたものだと。
そしてその石をインコの大王様が素早く積み上げて、よろけた石ごと机をぶった斬る。
世界は終息へ向かうようにどんどん崩れていく。

色々あって、元の世界に戻る。
夏子は子供を無事に出産し、眞人たちも東京に戻ることになる。
戦争はもう終わったのか、それともまだ続くのか。
どちらにせよ、これから激動の時代を生きていくことは確か。

下の世界のことを「人間の体内の細胞」とか「子宮内の胎内」とか「地獄」とか、色々なことを考えてみたけど、その全てのどれでもあり、どれでもない。
この世の真理や理(ことわり)のような、色々と混沌に混ざり合った世界が時空を超えて繋がっている。

悪意とは非常に厄介なもので、視点や立場によって意見が全く変わってしまう不思議な性質を持っている。
意図した悪意も、意図しなかった悪意も、どちらもタチが悪い。
みんな自分が一番正しいと思い込んでるし、自分が可愛いし、自分のことが大好きだ。

「自分は差別をしない寛大な人間だ」と思い込んでいても、その意見に達してる時点で既に「どこかで自分とは違う、差別をされてる人間がいる」ということを認めることは差別を助長していないのか?とか。

SDGsのスローガンで「誰一人取りこぼさない社会」を掲げてるけど、それはつまり「現状は誰かを取りこぼしてる社会」である事実を認めてることは、SDGsの掲げる目標から逆行していないか?とか。

良かれと思って言った言葉が、相手にとっては悪意となって傷をつける場合もある。

自分は相手に傷をつけられた!と被害者意識を持ってしまう場合もあるが、それは勝手な思い込みで、本当は相手が正しかったと反省する場合もある。

『悪意』とは、どっちが正解でどっちが間違いだとか、そういう次元ではなく、人や立場や環境や時間や状況によってころころ姿形を変える捉え所のない不思議な存在だからこそ、もっと真剣に向き合うべき、大きな課題なのかもしれない。

噛めば噛むほど味が染み出るスルメのような映画。
他人のレビューや解説や考察はもう少し時間が経ってから見よう。
今は自分の率直に思った感想に浸っていたい。