板倉裕聖

君たちはどう生きるかの板倉裕聖のレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
5.0
登場人物だれひとりにも感情移入できないし、大好きなジブリの世界観もわりと控えめで空気感に全身を委ねる感覚も味わえず、宮崎駿のありえないのにすぐそこにあるかもしれない身近なファンタジーって感じもなかった。期待していたものとはぜんぜん違ったけどエンドロール中あふれる涙が止まらなかった。いろんなものが抽象的に描かれていて説明もない。ただ宮崎駿がおれはこれをつくったぞ勝手に観てくれって映画に感じた。まるで神話のようなはなし。

↑公開当初初めて観たときの感想(たぶん評価4.0くらい?)


あれからこの半年、自分の人生の中で圧倒的に濃く薄暗く息苦しい時間を過ごして色々な辛い経験をし、色々なものを目にした。身内の死、失敗、失望、落胆、孤独、etc...
そんな今年の最後に映画館でどうしてもこの作品を観たかった。いまの自分を通して観たこの作品は半年前とは全く違った色を見せてくれた。


↓初見から半年後(鑑賞2回目)の感想

半年前この作品を全くの他人事のようなものだと思った。いま観たこれを全くそうとは思えない。この作品は宮崎駿が見ている世界そのものである。そしてその世界は自分がいま見ている世界と酷似してた。大巨匠に対してこう言うのは非常に恐縮なのだけど、宮崎駿が思っている世界はこうだというものが恐らく、最近自分の考えていた世界なんてこうだというものがほぼ同じじゃないかな。しかもこの主人公眞人は自分にすごく似ていることに気づいた。章分けで感想書いてくよ!

①私にとって
この映画はいろんなコンプレックスや現状に押しつぶされそうで全てを投げ出して諦めてしまう選択肢も視野に入れ始めていた自分の全てを受け入れてくれて背中を押してくれた映画。誰でも同じように生きていけるわけではない。一般的で普遍的な普通の幸福を享受することが全てではない。誰とも違う道を選び進むことも美しい生き方のひとつだ。それを選択するのは本当に苦しいかもしれないけどあの宮崎駿監督にそう言って背中を押してもらった気がして、とてつもない勇気と自信を手に入れることができた。私にとってこの映画はそういう映画。

②眞人
眞人という人物は悪意と嘘を嫌い、基本他人に無干渉で無関心。自分の生き方というものを自分の人生において最も重要としている。1回目はなんか感情が読みづらいキャラクターだなと思ったけど、本当の母を愛しているから夏子との接し方が分からずどうすればいいか戸惑っているのが非常に丁寧に演出されていた。なんでこんな分かりやすい演出を見逃してたんだろ?新しい母、つまり新しい家族で弟?妹?を腹に孕っている。間違いなく大切な人なのにそれを素直に表現できず、ずっと父の好きな人だからと自分の命も顧みず助けようとしていた。その冒険の中でアオサギと出会い、助け合い、歪み合い、他愛もないやりとりの中で友情というかけがえのないものを初めて手にした。悪意を孕んだ石で世界を創っていた大叔父が眞人に悪意を持たない石だけで悪意のない世界を創れる積み木を与えられたが眞人は拒んだ。最も眞人が求めていたもののはずなのになんで?「この傷は僕の悪意です。」ここ鳥肌と涙ヤバい!悪意と嘘が嫌いだけど自分の中にそれを持ってしまっている矛盾。この傷に対して強い後ろめたさを持っててそれがある以上偉そうに悪意のない世界をつくるなんてできない。この眞人というキャラクターは今までジブリが描いてきたキャラクターのどれよりも人間臭さを感じた。これはたぶん眞人が自分に似ているからなのかな。個人的ジブリキャラランキング不動の1位のアシタカに並ぶくらい好きかも!?

③青サギ
大好き!このキャラクターがこの映画を象徴してると言ってもいい!いやそれは言い過ぎ?嘘と眞を使い分けるとりってパンフレットに書かれてた。「青サギはみんな嘘つきだと青サギが言った。それは眞か?この嘘はほんとだ!」これめっちゃ好き。このキャラクターは眞人と逆に自分と反対のキャラクターだと感じた。モデルは鈴木敏夫らしいね。掴みにくいキャラクターで基本何を考えてるかわからん。嘘つきで薄情者だけどすげー良いやつ。現実でもこーゆーやつ好き。この映画は眞人と青サギの友情映画でもある。映画を通してこの青サギとのやりとりによって眞人が成長してゆく。薄っぺらいことばっか言ってるから信用できなそうなんだけど友達としては信用したくなる。最初は美しい青鷺なんだけどだんだん醜いおっさんのサギ男が顕になってって、それが不気味だけど私たちをジブリのファンタジーに引き摺り込んでくれるのが楽しい。眞人に嘴の穴塞いでもらって青サギに戻って美しい姿だって喜ぶとこ。やっぱ人にとって外見ってすげー大事で、今自分の容姿がどういう状態なのかって内面に大きく影響するはず。そういう現代人のコンプレックスを体現しているキャラクターでもあると思った。「もっと滑らかに削って!」て言ってるサギ男めっちゃかわいいすき。ラストの「だんだん忘れるさ。それでも良いんだ....。あばよ、友達。」が哀愁漂っててめっちゃ良い。泣いちゃう。こいつのおかげで眞人はどう生きるかっていうのを考えられたんだよね。すっごい良いキャラ。先輩がこいつはTwitterのトリって言ってたの面白いと思った。

④君たちはどう生きるか
この映画大半の人がよく分からなかったって言ってる。実際半年前の自分もそんな感じだった。世界観を楽しむ?考えずに感じる?そういう映画なんかな?って思ってた。ぜんぜん違う。劇場が暗くなってから明るくなるまでとにかく考える映画。映画の全てを読み取ろうと全集中してとことんまで考える映画。そんなこと親切にタイトルがおしえてくれてたのになんで気づかなかったんだろ。そしてたぶん観る人がどう生きているかによってこの映画がみせるものが全然違ってくる。100人が観たら100通りの解釈が生まれると思う。「よくわかんない」でこの映画を済ませてる人たちほんとにもったいないと思う。宮崎駿、ジブリ、これをつくってくれて本当にありがとう。わたしたちと向き合う決断をしてくれて本当にありがとう。

ちょっと疲れたから気が向いたら追記してく。まだまだ書き残したい感想がいっぱい。ここまで自分の中で評価が一変した映画初めて。すっごい不思議な体験。
板倉裕聖

板倉裕聖