SANKOU

君たちはどう生きるかのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

宮崎駿監督の中でもおそらく一番難解でグロテスクな作品ではないだろうか。
確かに心に焼き付く作品ではあるが、どのように受け止めて良いのか迷ってしまった。
決してエンターテイメント性がないわけではない。
『ナウシカ』や『ラピュタ』や『もののけ姫』などを彷彿とさせるような描写もあり、冒険ものとして、また異世界ものとしてワクワクさせられる部分もあった。
しかしどこか整合性が取れていないような違和感がずっと拭い去れない。
実はこの違和感は冒頭からずっとあった。
まるでデヴィッド・リンチの描く悪夢を観ているような感覚もあった。
日常の延長線上にある非日常的な光景。
まず主人公の眞人が口数が少なく、何を考えているのか分かりにくい。
彼は最愛の母親を空襲で亡くし、父親と共に田舎に疎開して来た。
父親が軍需産業で儲けていたこともあり、暮らしぶりは裕福なようだ。
礼儀正しく、物分かりが良さそうでもあるが、心にとても腹黒いものを抱えているようにも見える。
突然喋り出すアオサギに敵意を抱きながらも、アオサギが喋るという非日常な現象はすんなり受け入れているところや、拒絶感があるのか父親の再婚相手の夏子のことを「父親の好きな人」と言い続ける冷たさなど。
疎開先の同級生と喧嘩した後に、わざと石で頭をぶつけて大量に血を流し、父親には転んだのだと嘘をつく姿にも狂気を感じる。
感情をあまり表に出さないので忘れてしまいがちだが、眞人はまだまだ子供であり、母親の死を受け入れるには幼すぎたのかもしれない。
そう考えると、この映画にはいたるところに眞人の声にならない叫びが溢れているようにも感じた。
とにかく観ているこちら側も状況を整理出来ないまま、物語の展開に呑まれていく。
良く分からないまでも、この映画が死と密接に結び付いていることは良く分かった。
そして真に争いのない平和な世界を実現させようとすれば、大きな犠牲がつきものになってしまうことも。
この世界があり続ける限り、人はこれからも衝突し続けるだろう。
それでも人はこの世界を必要とし、苦しさの中で生きる意味を模索し続けるのだろう。
様々な考察が出来そうだし、おそらく隠されたメッセージもたくさんあるのだろう。
残念ながら理解が追い付かず、十分に楽しむことは出来なかった。
ただどれだけ難解でも本当に優れた作品は理屈抜きで凄いと思わせる何かがある。
まだ一度観ただけだが、この映画からはその凄みのようなものを感じることが出来なかった。
これが宮崎駿監督の集大成だとすれば何だかとても独りよがりに思えて寂しい気持ちになった。
亡くなった母親のダミーを見せるような悪意あるアオサギが、眞人の友達になっていく展開はとても良かったが。
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