黒猫式

ペーパーシティ 東京大空襲の記憶の黒猫式のレビュー・感想・評価

3.0
1945年3月10日午前0時8分から始まった米軍による東京への空襲は様々な点で空前絶後の空襲であった。
低空侵入・約300機の市街地への絨毯爆撃・市街地民間家屋の延焼を目的とした新型焼夷弾M69を子爆弾としたクラスター弾約38万発の使用。結果として2時間程度の爆撃後に発生した大火災により一夜にして10万人の民間人が死亡し、負傷者は100万人を超えた。これは1回の空襲作戦として人類の歴史上最大の殺傷数である。

しかしながら、そんな10万の死者と100万人の負傷者の犠牲の上に復興した東京にその記憶を残す遺構もモニュメントも無く、ただ地獄を生き延びたサバイバーの記憶にあるばかりである。
そして戦時中は戦時災害保護法により民間人サバイバーへの補償がされていたが、何故か敗戦後GHQにより廃止され、戦後の新憲法下では軍属への補償のみしか法律でカバーされなくなってしまった。

この映画ではオーストラリア人のエイドリアン・フランシス監督により空襲サバイバーの3人のインタビューを中心にそれぞれの記憶の中にある惨劇と民間人被害者補償活動についてを描いている。

第二次世界大戦における「敗戦国」であるドイツ・イタリア共に軍属以外の民間人補償は国として補償する法律が機能しているが、日本は何故無いのか?米国の後ろめたさがあるのか?
いずれにせよ、80年間ものあいだ世論として大きな問題意識を持ってこなかったのは確かであり、この作品で取り上げた3人ですら公開前に亡くなってしまったように毎年サバイバーは亡くなり続けている中で、第二次世界大戦についてもう一度しっかりと向き合う必要が有るのではないかと。
東京大空襲だけを切り取っても一夜に失われた10万の命を忘却するというのは余りにも罪深い。
黒猫式

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