烏丸メヰ

インフィニティ・プールの烏丸メヰのレビュー・感想・評価

インフィニティ・プール(2023年製作の映画)
4.2
※強い光の点滅を含む作品です※

妻とともに南国へバカンスに訪れた作家のジェームズ。リゾートホテルで、著書のファンだという夫婦と知り合う。
そこで知るこの島の法律と“システム”ーー。

巻き込まれていく主人公と、同じ状況下でも明らかに感覚の異なる他の人物の温度差の演技に凄みがあり、特に扇情的であり何を考えているのか解らないギャビーを演じるミア・ゴスさんの諸々の表情や言葉の声色は圧巻。


主人公が、そしてもしも自分なら、倫理観と引き換えに手に入れていくのは、優越感か、それとも迷いか。
問いかけられつつ、油断すると思考を奪われそうな幻視と、どこまでが幻でどこからが現実か、そして今の主人公は本当に“主人公ジェームズ”なのか?という混乱の波状攻撃。

監督の、父ゆずり・かつ自身の確固たる作家性が遺憾無く発揮され、ちょっと自虐ネタなのかな?というシーンもあって良かった。

個人的に(価値観というか人生経験上)、報復感情や肉親を奪われた怒りや死による償いに対し“虚しいだけ”という着地点を示す生命倫理の作品に関しては「上から目線のある意味冷笑だろ」としか思わないくらい嫌っているのだが、本作はナンセンス・悪趣味・アートの皮をかぶっているものの作品の掲げる“倫理観”においては素直に“食らう”ものがあった。

私にとってこの映画は、司法、報復感情、生命倫理……自分の中の人間としての価値観を多方面からブン殴る極彩色の倫理観直撃スリラー。
凄まじい映像表現も、テーマの余韻も、ラストへの解釈も、全て噛み砕くのが難しいが本当に観て良かった作品。
同監督の『ポゼッサー』より好み、かつお父上の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』とも重なる感覚があり楽しめた。
道徳の教科書より雄弁な激痛のカオス!

“インフィニティ・プール”
それは「自然」の水景である海や湖と「人工」の水景であるプールの「境界線の判らない設計」。
烏丸メヰ

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