樺太柳葉魚

ナチスに仕掛けたチェスゲームの樺太柳葉魚のネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

現実と過去が交互に描かれる手法かと思わせて、微妙にずらしていく。冒頭、薄汚れた男が船に乗ろうとしている。身分証明書の名前はマックス。なのに知り合いらしき女性はヨーゼフと呼ぶ。ヨーゼフが本名でマックスが偽名だとしたら、男は慌てるべきなのに感情の起伏がまるで無い。証明書を確認していた人も特に気に掛ける様子が無い。どういう事?と思って観ていると、久しぶりに再会した雰囲気なのに、ヨーゼフとアンナは同じ部屋。待ち合わせしていたのか?どうも変。食事をする2人。喋るのはアンナだけで、ヨーゼフは強い緊張感にガチガチになっている。やがて回想シーン。ヨーゼフは弁護士で大金持ち。メイドさんに朝食を運ばせ、ベッドでいただく。行儀が悪いな!でも海外の金持ちってベッドで食事してるイメージありますね。ドアを開けたまま妻のアンナとイチャイチャ。メイドさんに見られたらどうするんだ。その方が興奮するのか。船の中のみすぼらしくて神経を尖らせたヨーゼフと金持ち全開のヨーゼフ。対比がエグい。友達から電話が掛かってくるけど嘘ついて無視。これが運命を大きく分けてしまうんですね。時代はオーストリアへのナチス侵攻まで秒読み状態。しかし金持ち達は楽観している。そんな酷い事にはならないだろうと高を括っている。後世の人間は知っている。ナチスがどれだけ悪辣か。パーティーで歓談などしてると無視した友達が直接忠告に来てくれる。良い奴だぜ!しかし時既に遅し。ゲシュタポに捕まるヨーゼフ。一方、船の中のヨーゼフはアンナが消えて大騒ぎ。アンナは最初から存在しなかったと知り、唖然。私は納得。ヨーゼフにしか見えてないから本名を呼ばれても気にしなかったのね。そうなるとアンナはどうなった?ナチスに殺された?そのショックで幻覚を見るように?微妙な違和感を抱きつつ観ているわけですが、チェスはいつになったら始まるのか?若干タイトル詐欺の気配も感じる。邦題、どうにかならんかったのかな。ホテルの一室に監禁され、情報を遮断され、何も出来ない無為な日々を強制され、偶然手に入れたチェスの本に夢中になり、それさえ奪われた男が錯乱して妄想の世界へ沈み込んでいく姿が恐ろしい。ゲシュタポのおじさんとチェスの世界王者ミルコが同じ俳優さんなのも、船の中のストーリーがヨーゼフの妄想なせいか。最大の敵が重なるのはさもありなん。私が同じ状況に置かれたらどうなるだろうか。
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