DJあおやま

アンダーカレントのDJあおやまのレビュー・感想・評価

アンダーカレント(2023年製作の映画)
3.8
やっと観に行けた。原作は未読のまま。
これまでの今泉力哉監督の作品にはない静けさがあって、軽妙な会話は少なめ。静かに流れるように過ぎていきつつも、心にずっしりとした重みを感じる144分間。上映時間の長さは気にならず、心地良い着地を迎えて好感。
キャストが豪華で、この手の映画好きには嬉しい布陣。秘密を抱えながら寡黙に徹する井浦新の安心感。そして、クライマックスの堰を切ったように溢れる涙に、こちらまで泣けてしまった。瑛太も相変わらずの好演で、人に合わせて何かを演じたり、嘘をついたりしていくうちに自分がわからなくなる、そんな役どころがぴったり。まるで妖精のような愛らしさと軽さを持つリリー・フランキーが、コミカルなシーンの少ないこの映画に安らぎを与えてくれる。康すおんのまるで探偵のような語り口はやり過ぎ感はあったけど、やたら将棋が弱かったりするチャーミングさが素敵。
タイトルが示すとおり、人の表層に現れていることがすべてではなくて、腹のうちでは何を考えているかなんてわからない。職場でも家庭でも、気づけば求められる自分を演じているし、それもまた“自分”なんだよなと思うことがしばしばある。それを受け入れた上で他者としっかりコミュニケーションを取らないと、そりゃ行き違いも生じるよな。誰かのためばかりではなくて、自分のために何かを演じるのもたまには良いのかも。
それにしても昔ながらの家屋に住み、慎ましくも豊かな食事をとり、銭湯を切り盛りする生活は、かなりスローな印象を受けるけど、少し憧れてしまう。実際は大変なのだろうが、時代の混沌さとは隔絶されたようなユートピアを感じた。
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