akrutm

神さま聞いてる?これが私の生きる道?!のakrutmのレビュー・感想・評価

4.3
11歳の少女マーガレットが自分の宗教的なアイデンティティや第二次性徴などに悩みつつ成長していく姿を描いた、ケリー・フレモン・クレイグ監督のドラマ映画。

原作は、若者向けの小説で有名な米作家ジュディ・ブルームの同名小説。1970年に出版されたこの小説は、生理などの思春期の性や宗教的アイデンティティをオープンに語っていることから多くの批判にさらされた一方で、同年代の読者からは強い支持を受けた、ジュディ・ブルームの代表作である。本映画の公開と同時期に、ジュディ・ブルームの人生を描いたドキュメンタリー映画『ジュディ・ブルームよ永遠に』が Amazon original として配信されていて(まだ未視聴)、2023年はちょっとした「ジュディ・ブルーム」ブームらしい。

ストーリーは、マーガレットの家族が住み慣れたニューヨークからニュージャージーへの引っ越しから始まる。これまでの友人や大好きな祖母と別れることになるマーガレットは、引っ越ししなくて済むようにと、いつものように神様に願いごとをする。そのときにつぶやく言葉が、映画(=小説)のタイトルになっている Are you there God? It's me, Margaret(そこにいるのは神様ですか?私です、マーガレットです)である。一方で、宗教が異なる(父親はユダヤ教で、母親はキリスト教)両親は、そのことで母親の両親と親子の縁を切られたという経験から、マーガレットには適切な時期が来たら自分で宗教を選んでほしいという進歩的な考えを持っていて、マーガレットは信じる宗教がまだ決まっていない。つまり、神様に願いごとをしながらもその神様が決まっていないという、ある意味で日本人的な状況なのである。そんなマーガレットが、時あるごとに神様に願いごとをしながら、新しい場所・学校での生活の中で成長していくという成長譚である。全面的なハッピーエンドにならないという点もリアリスティックで好感がもてるし、そんな中でも成長したマーガレットがラストシーンで神様につぶやく言葉が印象的である。

内容的に少し地味ではあるけれど、思春期の少女(の心の内)が生き生きと描かれているとともに家族の大切さや温かさも感じられる、とても素敵な作品に仕上がっている。ケリー・フレモン・クレイグ監督はこの小説のファンが抱いている小説世界をできるだけ損ねないように脚本を書いた(時代設定も小説と同じ1970年のまま)そうで、これが功を奏して、小説のファンからも本作はとても高い評価を受けている。またプロデューサーの一人として参加した著者のジュディ・ブルームは、今まで映画化のオファーを何度も断ってきたが、ケリー・フレモン・クレイグ監督の熱意に動かされて映画化を認め、さらに本作は小説よりも良いとまで発言している。今のところ日本での公開は予定されていないようであるが、ぜひとも劇場公開や動画配信をしてほしい映画である。(私は、海外出張先の Netflix で配信されていたので視聴できた。)

マーガレット役のアビー・ライダー・フォートソンの自然な演技が素晴らしいのは言うまでもないが、個人的に印象に残ったのがマーガレットの母親を演じたレイチェル・マクアダムス。彼女に飾り気のない素朴な母親役が似合うなんて、なかなか感慨深い。本作では、マーガレットとの関係を通じて、自分らしく生きるのが大切であることに気づいていくという母親の成長譚にもなっていて、そんな母親を全く違和感なく演じたレイチェル・マクアダムスがとても良かった。彼女の新たな代表作と言っても過言ではないだろう。
akrutm

akrutm