くりふ

バニシング・ポイント 4Kデジタルリマスター版のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【砂漠からは出られぬとはこういうことか】

ごめんなさい舐めてました。70年代の数ある搾取映画、その出来のいい一本、くらいに思ってた。この監督作はトホホな『クライシス2050』しか見ていなかったし。

まずは、消失点を目指すロードムービーでした。このタイトルからして示唆的で、遠近法からいえば消失点って、確かにあるが、いくら走っても絶対行き着けない場所…なんだよね。

キューバ出身の作家が書いた脚本は、当時のアメリカ、心の砂漠をカタログ的に集約し、監督は時に、ドキュメンタリーのようにそれを撮りおさめ、血肉を通わせている。

『激突!』タンクローリー運転手も担当したケアリー・ロフティンによるカーチェイスもいちいち惹かれるが、そのチェイスが引き起こす人物タペストリーの方が、遥かに面白い。

リチャード・ザナックの介入もよかったものか。監督が“ダスティン・ホフマンとボブ・ディランを足した感じ”と言い、粗暴に見えぬ含みが良いバリー・ニューマンは彼の推薦。

素っ気無いエンディングもザナックの指示らしく、監督は嫌だったらしいが、アレでむしろ、ニューシネマ枠のジャンル映画として収まってくれた。消失点を目指して、何処か物凄い処にイッちゃう可能性もあったが、途中で行き倒れずに正直、ホッとした。

確か『セルロイド・クローゼット』にも出たと思うが、ゲイの扱いはヒドイね。当時、ああヒネてしまったゲイもいたろうが、ああ表明などしないだろうに。時代とはいえ、同じ差別でも黒人へのものと大違い。いかに可視化されていなかったかよくわかる。ゲイ消失点。

一方、あの黒人DJのスタジオは、いま見るとまるで、ゾンビに囲まれての籠城に見える!

“安心してください殿方、穿いてませんよ”な“全裸バイク”は勿論!大っ好きですが…ヤリ過ぎだよね。でも、あんなヒッピー娘が当時、ホントに居た気もするのがアメリカ砂漠。演じたのは、ロケ地に居た暴力警官役の彼女で、監督が口説いて脱がせたとか…なんて時代だ!

今では見ないなあ…的“ヘビ開放!”ショットは驚きでさえあるが、アレは毒蛇を掴む儀式を行う一派なんだってね。代わりが見つかったからもう要らん!…てどんだけいい加減な教義だよ!時代のブランチ・ポイントではあるのでしょうが。

あと全く説明ないけど、ブラックパンサー党員がしれっと出てきたね。そんな70's・ポイントがアチコチに仕込んでありワクワクした!ま、当時は隠していたわけじゃないんだが 笑

カーチェイスで面白かったのは、え、これ『マッドマックス』の元ネタじゃないの!?ていうショットやモンタージュがザクザク出てきたこと。本作の影響力を思い知らされました。

スピルバーグもお気に入りらしいが、『続・激突!/カージャック』への影響もハッキリあるよね。撮影の盟友ヤヌス・カミンスキーも、少年時代ポーランドで本作を見てアメリカに憧れたとか。米国の体制に反抗する映画だったから、社会主義国でも見られたそうな 笑

二人が組んだ映画の映画『フェイブルマンズ』と同じ年に、本作に出会うとは!

…と、後から調べたら色々わかってきましたが、ホント、しれっと、ポテンシャルあるある映画でした。作っている時は、ふつうにやっただけだろうが…時に映画って、こうだよね。

一番心に残ったのは…白のチャレンジャーが、砂漠で吹き上げる二本の黒い土埃。そこから砂煙が大きくたなびき、さらに向こう、逃げ水が地平線をゆらゆらと切り裂く。奇跡的に思えるショットなのだけれど…ホント、当時はふつうに撮っただけなのだろうなあ…。

<2023.4.6記>
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