平田一

スペースマンの平田一のレビュー・感想・評価

スペースマン(2024年製作の映画)
3.7
自己防衛の行き着く先かのような宇宙船内と夜明けの水面を奏でるような静謐な音楽が、ものスッゴく素晴らしかったNetflix映画。ヨハン・レンク監督(「チェルノブイリ」)のどこまでも静かに綴り、決して大袈裟な音響や音楽を排除する、物語と映像で語る姿勢は健在で、夫婦役のサンドラーとマリガンもピッタリです。

謎めいた来訪者「ハヌーシュ」とのやり取りがまるでサンドラーを通じて、こちらへ語っているようで、温もりの存在しない宇宙と宇宙船内の、貴重な温もりで、突き刺さる真実になってます。「チェルノブイリ」に引き続いて安っぽい美談は勿論、大衆が見たがるものをことごとく排除して、沈黙の先に待ってるものへひたすらに向けていく。それがどんどん水の中に溶け込んでいくような、また自分を見つめ直す人への賛歌に感じます。

特にクライマックスは個人的に大好きなキアヌ・リーブス、シャーリーズ・セロン主演のラブストーリー『スウィート・ノベンバー』における残酷な夜明けの終盤以来に美しい始まりの場面です。

ですがロシアのSF映画だから描ける要素とか、もっともっと難解で考察しがいのある視点で描けばきっと、ものすごい名作になれた気が。ちょっとシンプルになりすぎてるところも感じられました。

けど、これは思いがけない拾い物の作品でアダム・サンドラーという俳優の奥深さも見れました。他人に自分を知られることを、踏み込まれるのを恐れるあまり、大事な人を傷付けた経験のある人にこの映画は突き刺さるものがあると思います。


【一番突き刺さった台詞】

ハヌーシュ「自分の都合でしか繋がらない」
平田一

平田一