平田一

スワン・ソングの平田一のレビュー・感想・評価

スワン・ソング(2021年製作の映画)
5.0
開幕から美しいウィットに富んだ場面があって、そのシーンで主人公が遅れて気づいた勘違いで、一気に引きずり込まれていったApple(TV+)オリジナル映画。数多のクローン人間をテーマとした映画において、初めて味わうものに溢れたオリジナル映画です。

デザイナーのキャメロンは不治の病で余命僅かであるのを家族に告げられず、自分の代わりをクローン人間に託すべきか考える。かくして生まれたジャックという仮名のクローン人間と、相対し、死にゆく己とジャックにキャメロンは向き合い…。

まず心を奪われたのは、この映画の撮影です。涼しくて滅菌されたような風景や光…一体どうやって撮影をしたんだって思うほど、カメラワークか芸術の域に達ってしましたね。冒頭の相席になったキャメロンとポピーがテーブルの上のチョコを食べ出した瞬間から、この映画の美しさはホントに見たことなかったです。スタッフロールを見てみたら、撮影監督はマサノブ・タカヤナギさんでした。あの『ザ・グレイ』を撮ったカメラマンだったんだ、と知った瞬間、納得できて、感激してました。アイスランドで撮影したのか、風景の美しさ、けど厳しさも内包するショット、非常に納得です。多分今、素晴らしいカメラマンの一人かと、

劇中のクローン人間の在り方も良かったです。敵か味方かで大半は描かれてきたクローンが、ここでは(見たくはないけれど、)誰よりも自分のことを理解している分身で、聞き手と助言を言ってくれる隣人になっていて、そこがこの素晴らしい映画の見事な観点です。兵器じゃなくて託される代理人であることがとても胸を打たれますし、スゴく切なかったです。

あとやはりストーリーの静かさが沁みました。かなり静かに進むけど、役者陣の熱演と、考えを受容している豊かなテーマとストーリーが、決して映画に退屈させないぐらいにそこにいましたね。クローン人間にしても、オリジナルの人間や、クローン人間の開発に関わる関係者にしても、とても優しい目線を通し、けれど偽善と言われることも承知でそこに立っていることを感じさせたので、お涙頂戴映画じゃできないことを与えてくれました。

特にこんなに穏やかで優しい眼差しに満ちている大女優グレン・クローズさんは初めて見ましたね。実験のリーダーでキャメロンに実験の参加を促すんですが、決して強硬策でなく、彼を終始尊重し、時に現実を突きつけることも辞さない優しさを、表情や言葉づかいで表現されてたのが良くて、終盤でキャメロンと語るときの表情の深みある温かみ、とてもとても沁みました。キャメロンより実験を先に受けてた先輩役のオークワフィナさんも明るくて切なくて良かったです。

久しぶりのApple TV+独占映画がこれほどの素晴らしい映画なのが嬉しいし、グレン・クローズさんの日本語吹き替えを担当した宮寺さんの落ち着いた優しいお芝居も本当に良かったです。
平田一

平田一