このレビューはネタバレを含みます
2024-7(3)
年代:1891年
舞台:アイルランドの田舎町
「Daddy......daddy...」
1980年代初頭のアイルランドを舞台に、9歳の少女が過ごす特別な夏休みを描いたヒューマンドラマ
第72回ベルリン国際映画祭で子どもが主役の映画を対象にした国際ジェネレーション部門でグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートもされた。
●あらすじ
1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに。はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーンとアイリンの夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。
ぴあオンライン試写にて鑑賞
親から十分に愛情を注がれず家での居場所を見つけられないコット
家庭教育が行き届いてないため授業にはついていけず、学校でも劣等感を抱えながら過ごしていた。
姉妹の中でも親の言うことを聞かない問題児コットは厄介払いのように夏休みの間、親戚夫婦(母親のいとこ)の家に預けられることになる
そこでコットは本当の愛と生きる喜びを知っていく。
この物語の中で描かれる両親はネグレクトの部類ではあるが、母親は妊娠中ゆえの一時的な他子の放置、父親はギャンブル依存と女癖の悪さはあるものの少しトゲのある言葉の暴力程度。
暴力による虐待もなければ、全く無関心というわけでもない。
しかし家庭は立体的ではなく表面的、機能不全である。
第三者から可視化されにくい分、問題になりにくいという点では当人は非常に苦しんでいるだろうし、世の中にはこういう人たちは沢山いるんだろうなぁ。と思わせられる
コットのそんな悩みとは裏腹に終始美しいアイルランドの風景が憎たらしくも感じる
ショーンとの搾乳の場面
コット「なんで牛さん(子牛)に粉ミルクをあげるの?人間が粉ミルクを飲んで牛さんには牛乳をあげるべきよ」
牛乳=愛情と置き換えて考えると、コットは母親が赤ちゃんのことで自分に構ってくれないのは当然のことだと頭では理解している。
だからこそやり場のない怒りや不安を抱え込んでしまっている。
ショーンは初めからコットに対して親切だったわけではないし、すごく甘やかされたわけでもない。
アイリーンだって「秘密はない」と言っておきながら息子の死のことを隠していた。
しかし不完全ながらもコットからしたらそれがとても居心地が良かったのだ
物語は最後まで平行線でこれといった大きなイベントもなかったが、観終わった後に心に残る作品。
最後の抱擁には胸がギュっと締め付けられた