風の音、葉が擦れる音、空を流れる雲、すべてがコットを静かに見守っているような静謐で優しい映画だった。コットを取り巻く空気をスクリーン越しに伝えてくれる撮影も音響も本当に素晴らしい。本作はアイルランド語の長編映画を支援する“cine4”プログラムの作品で、パンフレットでもアイルランド語の現状が詳述されており、読み応えがあった。
海で2人が喋るシーンに胸を打たれて、ずっと脳裏に焼き付いている。「沈黙は悪くない。たくさんの人が沈黙の機会を逃し、多くのものを失ってきた」
棺の中で組まれた手、部屋に差し込む光、物陰からコットが隠れて垣間見た親密な2人。細部まで丁寧に捉える視点の優しさが一貫していた。
コットが着ていた服が誰のものか明かされた後に、牛舎で変わらずコットがその服を着ているのがとても良かった。