kana

夜明けのすべてのkanaのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
この作品を観て映画館を出た後に自分の目に映る景色がいつもと違うような気がした。そんな鑑賞体験は本当に久しぶりで、帰り道に自転車を漕ぎながら彼らの目に映ったであろう景色を想像した。

この映画は、苦しみを抱えて時に周りの人を傷付けながら、それでも優しくあろうとする「私たち」の物語だと思った。しんどさがまとわりついて和らぐことがない状況でも、この作品のまっすぐな優しさが何らかのセラピーとして機能するとさえ思うほどだった。

映画の冒頭、PMSについて少し説明的すぎると思ったけれど、血栓の恐れがあるとピルは飲めないことなどがさらっと触れられており、とても丁寧な描写だったと今振り返ってみて思う。そもそも山添も「お互い?」と聞き返したようにPMSについて根本的に誤解をしていて、そこから何気ないきっかけで本を自ら手に取り、その誤解を少しずつ解いていく。この映画を観ている人の中にもきっと病気に馴染みがない人がいて、その人たちにとってもまたこの映画が理解の糸口になるんだろうということを考えた。

お菓子を分け合うことに鬱陶しさを感じ、周りが遠くなってしまったような気がしていた山添が、少し立ち止まって考えてみればそうではないかもしれないことに気付いた瞬間の描き方があまりにも素晴らしくて。

病気を抱えた当人たちの辛さだけでなく、大切な人を失った人々の苦悩についても描き切った脚本が素晴らしかった。山添さんや藤沢さんをサポートする人々の目線は常に温かく、受け取りきれないくらいの優しさに溢れている。そして、それが偽りのものではない真摯さによるものなのだとひしひしと伝わってくる。

カセットテープをきっかけとして世界はどこまでも広がっていく。プラネタリウムを通して過去と現在が繋がってゆき、周りの人をも巻き込んでいく様子がとても優しくて、希望が紡がれていくようで本当に素晴らしかった。窓越しに映し出される、地球の映像を眺める栗田科学の人々や休日に出勤した2人がほのかな灯りで作業する姿も忘れられない。
kana

kana