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コット、はじまりの夏のカポERRORのレビュー・感想・評価

コット、はじまりの夏(2022年製作の映画)
4.3
【キャリー・クロウリー(60)
キャサリン・クリンチ(12)
これはもう事件であり奇跡である】

今更ながらではあるが、2024年を振り返れば、カポ的今年上半期の洋画1位作品は、文句無しで本作『コット、はじまりの夏』だった。
本作は、第72回ベルリン国際映画祭の国際ジェネレーション部門(Kplus)でグランプリを受賞。
1981年、夏のアイルランドを舞台に、9歳の孤独な少女コットが親戚夫婦と過ごした特別な夏休みを描いた作品である。

以前、私は『ルックバック』のレビューで「藤野があぜ道を疾走するシーンで号泣した」とカミングアウトしたが、実は今年、主人公の疾走シーンで私が号泣した作品がもう1作あった。
それが他ならぬ本作『コット、はじまりの夏』のラストシーンである。
あまりネタバレしたくないので、ここでは本作の監督であるコルム・バレードがインタビューで語ったエピソードを引用しよう。

インタビュアー:
とても静謐な物語ではありますが、その一方で、繰り返される「走る」という行為が印象的でした。
クライマックスにおける「走る」も、鮮明に記憶に残っています。
走るシーンにおいて、意図したこと、心掛けたことはありますか?

コルム・バレード監督:
特にラストに向かう“走る”シーンは、最後の方で撮影したシーンの1つでした。
感情面については、今回はほぼ順撮りということもあって十分築けていたので、後は物理的な行為(=走る)をただおさめるような感覚でした。
コットが心を突き動かされて行動した…というイメージだったと思います。
ここで描かれる“事実”がすごく力強くて、あの時点で2人(キャサリン・クリンチ&アンドリュー・ベネット)に何か演出をするということもほとんど必要ありませんでした。
その時点でもう2人の関係がしっかりと築かれていたからです。
コットの行動にどんな痛みや美しさが伴われているのか、理解できる。
なのでこの時に現場で必要だったのは、物理的に彼らがその行為を演じるだけでよかったのです。
自分自身、監督として介入する必要もほとんどなくて、ただその様子を見守っているような感覚でした。
シンプルな形でアングルもある程度数をしぼって、その瞬間の奇跡を切り取ろうとした、というのを念頭に置いていました。
ぼくら制作陣はこの映画と共に長い旅をしてきたので、映画のキャラクターたちが起こしたラストシーンを目撃することは本当に心動かされる体験でした。
モニターを見ながらみんな目に涙を浮かべていましたね。
特にコロナ禍での撮影だったということもあって、それまで日常の出来事だった誰かを抱擁することが突如異質なものになってしまった中で、誰もが物理的に人と触れることを求めていた時だったと思います。
なので、僕らが見たラストシーンはとても強く印象に残っていて、より感動しました。

…作り手が、皆ラストシーンを撮りながら、感極まって涙する作品を想像出来るだろうか?
彼らが描出した作品は、彼らの手を離れ、自ら作り手の想像をも逸する感動を生み出したのである。
こんな奇跡…にわかには信じられないだろうが、本作を観れば、きっと誰もがその奇跡を目の当たりにし、鳥肌が立つに違いない。
主人公キャサリン・クリンチは…まさに奇跡の子。
本作未見の方は是非ご鑑賞頂き、彼女の疾走するその姿を目に焼き付けて頂きたい。
『コット、はじまりの夏』は現在、U-NEXT、Amazonプライムビデオ、TELASA、Leminoにてレンタル配信中。
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