横川百子

パスト ライブス/再会の横川百子のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.5
ちょっとこの作品の感想を端正に具体的に整理した文章で書き記すのは難しい。

何故難しいんだろうか?それすらイマイチわからないので一度鑑賞中感じた事をまんま感じた順に書き殴ってみよう。

「いつNYに来てくれるの?」
「今は行けない」
「いつソウルに来てくれるんだい?」
「今は行けない」

正確ではないけれど劇中要はこのような会話がなされるシークエンスを観た時に私は思う。

「要するにうまくいかない男女の関係・恋愛って全部これだよね…。この時点で未来は見えてるよね今作の二人は…。自分の今までを振り返っても反省だなぁー。痛いとこ突いてくるなぁ…。あの時自分への愛情以上にあの人を愛して行動していたら今の私はどうなっていたのだろう…?」

と、自分の過去の至らなさを思い出しながら劇中の二人に自分を重ね、若干イラっとしたおかげで鑑賞していく上で感情移入して拠り所となる人物を定め損なう。

で、その後の二人のなんやかんやを、ヘソンに対しては「この一途な気持ちは好きやけど決定的に大事な、私的にやって欲しい、もしくはするべきだと思う行動はとらんなーこいつ。ちょっとイラつくなぁ…」と感じながら、ノラに対しては「ヘソンと逢うんかーい!ま、でも私もこの状況になったら旦那に了解とって一度くらいは逢うか…」などと双方に感情移入しながら、そして同時に違和感も感じながら物語の成り行きを見つめる。

そして後半に進めば進むほどある人物に感情移入する事になる。
そう!中盤辺りから登場したノラの旦那のアーサー。
彼の置かれた立場やその状況で感じるであろう心情が、全く同じシチュエーションではないけれど鑑賞している私自身の過去の人生で経験した似通った状況とシンクロしてやっと物語世界に没入している感覚を得る。

の、だけれどこの時既に物語は終盤に入っていて若干遅いなぁーと感じてしまう冷静な自分もいる。それに一応本作の中心・主人公はヘソンとノラであって物語構造もやっぱりこの二人を軸にして構築されており、「アーサーはゆーても脇役やしなぁー」と、アーサーに感情移入しまくっている自分の今作との距離感というか鑑賞する上でのポジショニングがなんかビミョーで気持ち悪く感じて居心地が悪くなる。

そして遂にオーラス。おそらく鑑賞された方の大半に一番強い印象を残すであろうあの素晴らしい映画的なあの二分間(実際には45秒らしい)はノラにどうしょうもなく感情移入している自分がいて、下手から上手への並行移動ショット中、私の気持ちはどんどん昂り、フレームインしたアーサーの胸で泣きじゃくる彼女を観て私自身も泣いてしまう。完全に彼女に感情移入してしまっている。

と、同時にノラに対するほんの少しの「ざまーみろ」感が芽生える。

と、ゆーのも、彼女は劇中ずっと野心的で上昇志向が強く、常にまず自分があった。アーサーと比較的すんなり結婚した事もグリーンカードを取得するためという打算的な一面が少なからずは影響していただろうし、劇中ヘソンのノラへの一貫した想いに比してノラは常に受け身というかイニシアチブを握って選択権を有する気持ちの良いポジションに一貫して居たような気もする。

そんな彼女も若さ故の万能感と夢や希望に満ち満ちたあの日々から少しずつ現実の厳しさ残酷さに直面しながら時を重ね、妥協を繰り返し、その時々で理想を下げながら刷新し、なんとか今の自分の人生を肯定できるように折り合いをつけながら生きてきた結果、今のアーサーとの生活に幸福を感じてはいる。
もののそれはそれで真実なんだけれども心の奥底には今の自分、今の人生に対する不満・後悔もきっと横たわっていただろうし、意地悪な見方だけど、ヘソンの想いを感じながらもある意味気持ちをもてあそび続け、今とは違うもう一つのあったかもしれない人生の象徴・シンボルとして都合良くヘソンを置いていたノラが結果的に一番後ろ髪を引かれながら報いを受けたようにも見えて(なんか自分の意地悪さが凄く出てて嫌な感想ではあるんだけど…)、彼女に感情移入しながら泣きつつ、「ざまーみろ。今の今まで一途にあなたを想いながらもある意味苦しんできたヘソンがやっと解放されて前向きな人生を歩めるよ、今は確実にあなたの方が未練あるじゃん(単純に未練だけの感情から流す涙ではないけれど)。良かったねヘソン」と、相反する感情が芽生えてしまった。

と、同時に冒頭の後部座席から窓外を眺める少年ヘソンと同じ構図で映し出された先ほどの別れを経たヘソンの、ノラに対する想いにやっと折り合いをつける事ができたような表情と未来を見据えたような視線に拍手喝采、心地よい涙を流す。

と、ここでエンドロールを眺めながら私は考える。

「私、結局誰目線でこの切なくも愛おしい物語を観てたっけ?」

あ、今わかりました。
今作の捉えどころの無さと感想の難しさはきっとイイ意味では登場人物全てに感情移入できる瞬間がありシンプルでありながらも幾重にもレイヤーが施された深い厚みがある、言い方を変えると物語の中心人物を絶対的な一人に絞らせない多層的なシナリオのせいなんだ…と。

これに関しては一概にイイともワルいとも言えないですが、泣いちゃったにも関わらず採点を4点台にはできない一番の理由かなぁ…。と妙に納得してしまいました。

でも、映像面は文句なしに素晴らしいです。今作「画」が非常に考え抜かれており、よーく観てると、二人の関係性やその時々の心情の変化を画面内に映る色々な情報で表現してて、ある種のメタファー的な企みもそこかしこに施されています(下手が過去・上手が未来など)。一度しか鑑賞していないのにこれだけ見つかるんだからきっと配信開始されたら何度も繰り返し観て、監督の企みを探しちゃうなぁきっと!