春井

パスト ライブス/再会の春井のレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.3
わたしの好きな人がこの映画を観るのを楽しみにしているらしいことを知って、ろくにあらすじも調べないまま金曜夜、仕事終わりにひとり日比谷のTOHOシネマズで観た。

映画の内容とは関係ないことをまず書くが、TOHOシネマズ日比谷の、シアターに入る前のロビーのような空間が、わたしはどうやら好きらしい。
縦2階分を吹き抜けにしてつくられたそこは広々としていて気持ちがいいし、なによりばかでかい窓から見える景色がすばらしくいい。
だいぶ日が延びていたので、わたしがついた18時すぎには、窓の向こうにまだ明るさを残したなんとも言えない群青色の空が広がっていて、それが単色ではなく絶妙なグラデーションで、おそらくながめる間にも刻一刻と色合いを変えており、たまらなくきれいだった。
夜の色は黒じゃなく、さまざまな青が重なっているのだな。水をつけた絵筆で丹念に夜を溶くときっとこういう色になるんだろうな。この時期の夕暮れを見ると、いつもそんなことを思う。

皇居をかこむ堀の水面はビルの明かりを反射させてかがやいているし、道は光をしきつめたみたく車のヘッドライトできらめいている。そんなのをぼんやりと見ているとき、(あー、毎日へんなことやまほどあるけど、でもきれいなこともやまほどあるな)と沁み入ってしまう。

いいかげん、映画の話をしてください。


とはいえ、観た理由が冒頭のとおりだから、観てるあいだじゅう、件の””好きな人””のことを考えてしまったわけで。
つまりは自分の恋愛ごとに引き寄せてしまったので、映画自体の感想をうまく言語化できる気がしないな。
好きな人をきっかけにして恋愛にまつわる映画を観ると好きな人のことを考えてしまうので気をつけましょう。これは今後に向けた学び。

誰にでも「あのときああしていたら」と思う瞬間はあって、でもぜったいに「あのときああする」ことはできない。何かを選べなかった/選んだ延長にある未来で、日々を尊ぶしかないんだよな。

この映画からは、「後悔しないように選択しよう」とかそういうことではなくて、「焦がれるほどの過去があることの豊かさ」「話したい/会いたいと切実に願うことのまぶしさ」とか、なんかそういうのを感じたかな。格好いいことを書きたいが、映画をみながら思考することが不得意なので、ちっともうまくいかないな。

ソウルにいたころのノラが泣き虫だったと知ったアーサーが、「わたしは男より稽古が大事、知ってるでしょ?」と言われて「I know you.」って返すときのなんとも言えない表情がいちばん印象的だったな。
知ってることが切なくて、知らないことが寂しいよね。

自分の好きな人も、好きな人の好きな人も、選んだ今も選べなかった過去も、ぜんぶがばっと抱きしめて、大切にしていきたいです。おしまい。
春井

春井