やったカニ

パスト ライブス/再会のやったカニのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.9
正直ハマらない部分が大半だったが、ラストのシークエンスにぐっと来た。ラストが良かったこそ、全体を振り返って、あれこれ考えたくなる余韻が残る。

この映画は、言ってしまえば”初恋の終わり”なのだが、それは”記憶の清算”であり”イニョン-縁-の円環”でもある。
12歳の時の初恋の記憶は、ノラがトロントに移住することで時間的・地理的に凍結される。その記憶を、ヘソンは徴兵という過酷な環境に身を置くことで半ば依存的に保持し続けるし、ノラは二度目の移住先のNYにおいて、アイデンティティの根の韓国的な部分として保ち続ける。
しかし、記憶は清算され、初恋は終わる。そのためにヘソンはNYに来たのだし、二人とも、社会的に子供のままでいられないからだ。
ヘソンの別れの言葉が、なんとも切ない。彼は、この恋心を来世に偲ばせる。時・場所・姿を変え、再び巡り会えることを信じている。ここで初めて、繰り返し映画に登場する円環のモチーフとイニョン-縁-が重なり、ノラは彼の居ないところで少女に戻る。
この考え方が、すごく素敵で、ヘソンに対し批判的なレビューも見受けられるが、言葉にし難く自分のマインドとマッチしてるんだな。

そして、ノラの夫アーサーである。彼もまた、ヘソンによればイニョンで結ばれていると言われるが、カメラは残酷にも、彼を映すことはしない。これは、彼がイニョンという韓国的な思想に入り込めない白人であることや、この物語がノラとヘソンのものだということを言っているかのよう。ただ、あくまで二人の初恋の物語においては不必要だったというだけで、この映画にはアーサーが居ないと凡庸なまま終わっていたんだと思う。
しかしこの手腕が、いかにもA24っぽい。A24が気鋭の新人監督を引っ張ってきて、ありふれた映画を撮らせるだけで終わらせはしない、と。
やったカニ

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