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彷徨いのRのレビュー・感想・評価

彷徨い(2023年製作の映画)
4.0
おおおおおお、エンディングの賛否はさておき、そこに行き着くまでのあまりに不穏な雰囲気と、何が起こるか予測不可能ながら絶対ろくなことにならなそうな展開の巧みさにすっかり夢中!!! 途中から黒人差別的問題が絡んでくるだろうことは分かるのだが、今までに見たことのない気味の悪い居心地の悪さを感じさせる演出は、『アス』や『ステップフォードワイフ』などを彷彿させ、非常におもしろかった。まず冒頭、ロンドンの安アパートの一室にて、黒人女性が電話で、職場で好成績を出しているにもかかわらず、政府の補助の申請にいくと出来損ない扱いされたりする生活にはもう限界だと嘆き、涙を流している。その後、さっさと荷造りをして、ちょっと出かけてくると書置きを残してアパートを後にする。時は流れ、その女性ニーヴは田園郊外の裕福な邸宅で暮らしている。日々念入りにビューティールーチンを果たし、ポッシュなおしゃべりの練習をして出かけ、隣人と優雅に会話する。ガンビアの恵まれない子供たちのためにチャリティーイベントを自宅で催す予定で、盛大な成功を収めたいとの執着心から、準備に余念がない。なぜかというと、彼女は白人富裕層のコミュニティーのなかで唯一の有色人種であるからだ。カフェで話す友人から、あなたは仲間同然よ、ということばを受け、同然ね、と返す。ニーヴはイアンという白人と結婚しており、息子セバスチャンと娘のメアリーと4人家族で暮らしている。彼女は地域の私立高校の副校長でもある。そんな中、彼女は「黒人」的なものに、アレルギー的反応を起こしているようなのだ。金髪に染めたストレートヘアの娘の額あたりの産毛がくるくるとカールしているのを認めたり、夫が職場で黒人の女の子を雇ったなどと話すと、やたら敏感に反応し、息子が黒人の用務員と話しているのを見ると明らかにショックを受け、部外者と話すなと迫る。娘が友人宅に遊びに行って、髪をコーンローに編んで帰宅すると、怪訝な表情を見せる。彼女自身の黒人のヘアは常にスタイリッシュなウィグで覆って隠している。生活の中で黒人的なものに出くわすと、ウィグの下の皮膚に猛烈なかゆみを覚えて、ボリボリ搔きむしる。よく考えてみると、子どものセバスチャン、メアリーという名も、いかにもイギリスの白人上流階級的なネーミングだ。彼女は、町の中で時折、それまでに見かけたことのない謎の黒人男女を見かけるようになり、それに対して激しい嫌悪を見せ、彼らの幻を見るようになり、恐ろしい悪夢にも苛まれる。そして、ついにチャリティーイベントの日、上流階級の皆様が集まっておられる催しのピークのタイミングで、謎の黒人男女が彼女の前に姿を現し、激昂する彼女は彼らに罵声を浴びせるのだが、彼らの口からまさかの一言が発せられる……というところから、5日前にさかのぼって、ガラッと映画全体の空気が変わり、謎の黒人男女のそこに至るまでのエピソードが語られていきながら、それまでに散りばめられていたさまざまな伏線が次々と回収されていく。それまでのニーヴのステレオタイプ的白人傾倒描写から、雰囲気を一変させる音楽の効果も鮮烈。ニーヴの初登場シーンではプッチーニの蝶々夫人が流れていたのと比べてみてください。そして、ここからは逆に黒人が白人によって持たれているステレオタイプ的描写が容赦なく描かれていく。この時点で、この監督の人種が気になって、調べてみるとまーそりゃー黒人さんに決まってる、なのにこんな描き方するんや……という何とも言えない衝撃を味わいながら、最終的に主要人物全員が揃って大団円となる、後半の具合の悪くなるような悪意に満ちた展開と演出。まるでミヒャエルハネケの映画を再現しようとしたかのよう。ダダ洩れの水道水が高める不快度数の高さもあっぱれすぎてゲッソリ。これさ、普通に何も考えずに見たり、例えば子どもが見たりしたら、確実に黒人に対する恐怖感が激増する演出になってると思うんすよね。しかも、そこにいる唯一の白人さんが最終的に行きつく果てをご覧くださいよ。もちろん監督は敢えに敢えに敢えまくってこの流れを作っていったと思うのですが……それにしても強烈。そしてその緊張感が高まりに高まり、異様なバイク音の演出などのあと、え? まさか? うそん、まじで? からの、まさかのエンディングを迎えます。スクリーンのあちらでポカーン、こちらでもポカーン……な状態になってからの彷徨い。思わずえ⁈って声出たあと爆笑してしまいました🤣🤣🤣 おもろい!笑 のか??? それすらよーわからん。この終わらせ方は……アリなのか⁈ 反則なのか⁈ それは皆さんが見て判断してください。いろいろなレビューを読むと、結構みなさん反マザーなのですが、個人的には、なぜマザーがこんなになってしまったのか、そしてなぜ子どもたちがこんなにならざるを得なかったのか、それを考えるべき映画なのではないか、と思いました。2度目見ると、きっとその感がさらに強くなるのでは、と感じます。それにしても、主演のアシュリー マデクウェという女優さんの気色悪い演技にはゾワゾワしましたし、ジョーデン マイリー君、イケメンでありがとうございました。あ、ちなみに、僕がよくわかならかったのが、なんで彼らがあのとんでもないタイミングでプレイすることを選んだゲームがスクランブルかということと、その単語がrhino→tunaなのにも何らかの意味があるのでしょうか? ご存知の方いらっしゃったらご教授くださいませ。
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