このレビューはネタバレを含みます
◼︎安倍晋三氏の功罪についての映画かと思っていたが、終始一貫して彼の欺瞞を指摘していく構成で面食らった。
◼︎今回映画を観て再確認したのは、安倍氏の言論が私の頭には全く入ってこないことだ。スピーチは終始ふんわりしていて、何が論点かわからない。答弁は聞いているうちに質問を忘れるほど寄り道が多い。同じ言語を媒介しているはずなのに不思議なほど意味がわからない。
◼︎一方で、ネットやメディアで切り抜かれやすい、語呂はいいが空虚なコピーを染み込ませていく手法は見事としか言いようがない。だがここでの問題は寧ろ自分を含む聴衆の空虚さの表出でもあると思う。思想なき言説に対し感情的に反応して分断されるか、それを恐れて言論を避けるか。
◼︎中盤で掘り下げられるのは安倍氏の祖父や幼少期について。岸信介についての振り返るのはまだしも、安倍氏の子供時代のエピソードを拾って彼の心象風景を投写するのは、少し乱暴ではないかと感じた。
◼︎粗も確かにあるが、安倍政権に対する強い問題提起とシニカルな表現を往来していて、日本のドキュメンタリー作品としてはかなりのインパクトだった。