このレビューはネタバレを含みます
ラブストーリーに焦点を当てたことで、難民の社会的不安定さや国境に翻弄され、苦難を経験した20代の青年の肖像が霞んでしまっていた。
こういう役こそ20代の誰も知らない俳優を起用しなければならないんではないだろうか。
スター俳優がキャスティングされたら、広報力も備わり製作側は話題も作れるのだろうけど、かえってスター俳優の清潔さが、ギワンの置かれた身上の疲労や負荷が曖昧になってしまった気がする。
ソンジュンギ俳優の演技調整はさすがでありましたが、作品の核を象徴していた主演か、という点ではミスキャストだろう。
地下社会に足を入れ自暴自棄になっているヒロイン像もどこかありがちで、同じ街同じ時に生きながら眼前にある格差を無視している。
尊厳死や移民、不法滞在、難民申請、薬物依存という社会的課題が彼らの恋愛によって、「先送りする問題」に押し込まれているように見えた。
原作は未読ですが、放送作家の「私」の語りによって脱北から中国、ブリュッセル、韓国へと、一人の世界の片隅で生きた青年で繋がる内容だそうで、そういった無名の生涯が時空をこえて誰かを包摂するという重なりあいを薄めてしまったのは悪手であった。