ろ

夜明けのすべてのろのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

彼女との別れも藤沢の退職も画面には映らない。その省略がすごくよかった。インパクトが強くなるであろう場面を描かないことで、細部に意識がいく。細やかさはこの映画が大事にしているささやかな関係、その優しさに光を当てている。きれいな映画だった。
藤沢が実家の前で母親を見つめる表情がよかった。特に好きというわけではない山添にはあの表情は見せない。
出会えてよかったというモノローグが藤沢と山添の関係の核みたいな台詞だと思ったけど、原作にはなくて驚いた。でもたしかに原作のラストにあの台詞を入れたら余計な意味合いを持つ。ラストを変えてあの台詞を入れる脚色が素晴らしい。(逆に原作には、好きじゃないけど、好きになることはできるという台詞があってこれもよい)
あと社長の弟の詩が本当にいい。この詩を書いた人の選択を観客は知っている。夜と朝の境目はグラデーションだから、たまに自分がどこに立っているのかわからなくなってしまう。PMSもパニック障害も長く付き合っていかないといけないし、大切な人が自死したことの悲しみは終わらない。でもたまに誰かを助けたり助けてもらったりすることはできる。自分がどこにいるかわからないけど、朝も夜もまた来ることを覚えておきたい。(本当は何かしたいのに、自分には何もできないって思ってしまうことがいちばん悲しいことだと最近心から思う)
細かいとこも含めて原作から結構削ぎ落としている部分があって、その違いにこの映画の作り手が意識的に他者に寄り添う映画作りに徹していることが明白に現れている。それを本当に素晴らしいことだと思う。この映画が救う人はたくさんいるし、自分も見ていて心地よさを感じていた。
一方で、自分がこの映画をどう受け止めていいかわからない気持ちもある。映画の世界と現実があまりにも離れているからだと思う。この映画を見て泣いてしまったことを当たり前に感じる気持ちと、泣いて心地よくなってしまったことに対する違和感のどちらもが自分の中にある。
ろ