背骨

夜明けのすべての背骨のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
以前この症状に似たような事が少し起きた事があり、今も本当にごくたまにだが、息苦しくなりそうな時がある。この映画を観て数十分して、パニック障害の発作を見た時に、少し息が詰まりそうになった。席を立とうかどうしようかと思ったが、映画の力を信じようとした。

呼吸が呼吸でなくなって、過呼吸のようになる。息を吸うたびにどんどん苦しくなり、吸って吐いてが"普通の感覚"でいつも通りできなくなる。心臓の鼓動は速く強くなり、死んでしまうのではないかと、猛烈に苦しくなる。何かが過るように、その苦しみに似たものは、いたずらにたまにすぐ側までやって来る。

僕はあの映画のような段階まで、はっきりと病気と言える症状を経験したことはなかったが、その苦しさのようなものは少しだが理解することができるかもしれない。
電車に乗るのが怖い、などパニックの元は様々だが、僕の弟がこのパニック障害を持っていて、(今は薬や曝露療法などで、ほとんどこういうことは起きなくなりつつある)ちょっと身体を動かして運動するだけで心臓のバクバクが怖くなり、身体も動かせないという状態になる。少し脈がずれたり、鼓動が速くなると、止まらないんじゃないかと焦り、その焦りが更に加速し過呼吸になる。以前救急隊が駆けつけた事もある。
山添くんと同じように電車や車など乗り物に乗れなくなり、何をするにもパニックの元になった。何度も様々な検査やクリニックの受診を経て、パニック障害に落ち着いた。今は前述の通り、薬もあってだいぶ良くなってきているが、どこか不安で、眠れない夜を、山添くんも彼も何度も何度も過ごしている。

そんな山添くんに光を差したのが藤沢さんだった。藤沢さんはPMSを抱え、自分では制御できない苦しみに覆われている。それでもすごく真面目で、気を遣うことのできる、陽光のような優しさを纏っていた。
彼の部屋に藤沢さんが訪れ、髪を切るシーン。その中で特に藤沢さんがそっとカーテンを開けた時、目頭が熱くなった。

きっかけというものは、ひとつもふたつ、みっつもよっつもある。ただきっかけはなかなか簡単にはやって来ない。どこかの国では朝が来るように、どこかの国では夜が来る。
当たり前や常識はそこにあるけれど、どう足掻いても当たり前にならないこともある。

すべて温かい映画だった。誰かを支えている限り、誰かに支えられている。

誰かがこう書いていた。『世の中が求めている薬みたいだった。』僕もそう思った。
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