くりふ

ツィゴイネルワイゼン 4K デジタル完全修復版のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【桃色骨想い】

思い出したが、初公開は特設映画館だったよね。私はキネ旬の受賞イベントで見た。まだ10代の頃。特異なものを目撃した記憶はあるが…やっぱり今、見返す方が断然、面白い!

中盤で語りが足踏みするが、それ以外は全カット面白いんじゃないか!?と惹きつけられた。ここから二時間以内に収められたら、密度がまったく違った気がする。

で、画より語りのほうが上回っていることに大感心。ナレーションに巧さをおぼえる映画って、滅多にない。

そしてこれは、演出は特異でも、普遍日常的な感覚を忘れない物語だ。…しかし、何か変だぞ?という微妙な逸脱がすんごく効いているんですね。一編も読んでないが、内田百閒を元ネタにしたことは大正解だったんじゃなかろうか。

同じく百閒を元ネタにして、かつて山本直樹がエロ漫画を描いていたので、ああ、アレか!とすんなり引き込まれた。

サラサーテの名演奏という“通常”に混入された、ウッカリ録音される微妙な声の異物…。まさにこの構造が、本作の映画的構造そのまま。レコードを映画に変換してみせたのね。

清順美学と言われるが、美化される死より、雑然とした生の方が断然、魅力的だ。本作は怪談でもあるが、全然怖くない。死に魅入られるように映る人物も出るが、それも生に執着する故なんだよね。死んだ人間が、驚くほど映画に影を落とさない。

一方、自分が生きているか死んでいるかで迷う…みたいな問答は、退屈で時間の無駄。映画でそれが始まると途端に飽きる。モラトリアムはウチ帰ってやってくれよと。中盤が失速するのはそれが原因だと、個人的には思った。

映画の撹乱役である筈の原田芳雄は、“有害な男らしさ”が一般化した現代では、より大人しく哀れに映る。大槻ケンヂから麻原彰晃の間を行き来する見た目がオモロイね。

藤田敏八は映画のガイド役として素晴らしい!世界観にも見事ハマり、よく選んだと思う。が、役者力の弱さが終盤で露呈したのか、映画のまとめ役は務まらなかったみたいね。

ラストは、世にも奇妙な物語みたいに、凡庸に収まっちゃうんだよね。

飛び抜けて惹き込まれたのは、本作の循環器系・大谷直子!ファム・ファタール力が凄まじく、芸妓も含めた演技力の裏付けに、本当に感心してしまった。女優って本来こうだよね。

ヴァンパイア映画とも見える本作に激しく…時に薄く、血を流し込み続けるのは彼女だ!

ロケーションも見事に活きているが、やっぱり原田演じる中砂邸への、明らかに異界に向かう坂道と、そこから異界に突き抜けるトンネル“釈迦堂切通”が、尋常ではありませぬ。現在では危険のため通行止めになっているコトが、より異界風を吹かせます…。オイ、鬼太郎!

ひゃー!不満もあれど、よき映画体験でした。このレベルの日本映画がどんどん出てくれれば、安心して劇場にも行けるのですが…。

<2023.12.6記>
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