りょー

ツィゴイネルワイゼン 4K デジタル完全修復版のりょーのレビュー・感想・評価

4.3
理解はできない。でも、この映画を何とかして噛みしめたい自分がいる事だけはわかる。

原田芳雄のだらし無さとカッコよさ。

映像やセット、構図の美しさもさることながら、時系列が混沌とするような構造も見事。最後の小さな娘のセリフでいよいよ混沌極まる感じで幕引きなのもニクい。

蟹や全裸指パッチンなど、思わずニヤけてしまうシーンも多分に含まれている一方で、シリアスでミステリアスなムードで観客の心を見事射とめるシーンも多い本作。

鈴木清順監督のドキュメンタリーを観て、冒頭は「愛嬌のあるおじいちゃん」な雰囲気だったので(思っていた以上に)、この方のどこにこんな狂気があるのか不思議だった。ただ、ドキュメンタリーをすべて観終えると、この人が本作を撮ったことが妙に腑に落ちた。

どんな人の内部にも他の人から見れば様々なレベルの異質があることをこの監督は知っていて、本来それは日常生活を送る上で人目に表出する機会があまり無い、あるいは日常の最中で埋もれていくのだけれど、本作『ツィゴイネルワイゼン』ではその異質が巧みに取り出されていたと思う。

その異質とは、普段生活している最中で人目に映らない自分だったり、不意に浮かぶ瑣末的なアイデアだったり、人には言えない事、夢、性、死生観……多岐にわたると思う。

本作のそうした特性を、自分が強く感じたのが、ドキュメンタリーでの雀の話の時。

庭にやってくる雀に餌をやる。その雀がパンを咥えていると、他の雀がやってきて、その餌を取り合う。人間社会の構図と同じだ。すると雀が横を向いて、奥には入道雲が浮かんでいる。まるで雀がタバコをふかしているように見える。

なんて事ない、概ねこのような内容だった。ただ、何かの対象と人との構図を照らし合わせる様や、奥の入道雲と眼前の雀とを同じレイヤーとして重ねる様は、『ツィゴイネルワイゼン』でも多分に見られる特質だと思う。

Blu-rayの円盤をゲットしたので、一生観る。
りょー

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