ふじこ

ブラック・スウェルのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

ブラック・スウェル(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

モーテルで一人、自殺を選ぼうとする男。
銃を手に取り、ベッドに寝転ぶも隣の部屋から大音量で音楽が聴こえてくる。
起き上がって隣の部屋に音量を下げるように伝えに行くと、向こうは驚いた様子で先生!と嬉しそうな顔を見せる。
男は憶えてはいなかったが、かつて教師として微積分を教えた生徒の一人だったと言う。

青年は隣の部屋なんですか!と勝手に部屋に入ってきて、ベラベラと喋り、ベッドの横に置かれたお酒をねだり、一緒にハンバーガーを食べに行く提案をするが男はそれを断る。
青年はお酒を飲みながら、最近お酒を飲むようになった事を話しながら、まぁもう妻とは言えなくなったんですけどね と笑うが、男は聞きたくない、もう生徒じゃないんだ と言い、近況を話し合いたいと言う青年を強く静止し、出て行け!と怒鳴りつける。

そして青年が部屋を出て行ってすぐに、また大きな音楽が鳴り出し、その後に一層大きな破裂音が響く。
驚いてそっと隣の部屋を覗きに行く男。
ドアを開け、中を見たまま立ち尽くす。


何かが変わったかも知れないけれど、何も変わらなかった話。
この時点では。
若き元教え子の死によって、彼と話した最後の人間として、彼の最後のシグナルを跳ね除けた者として、男が今度どうなるかは分からない。
そもそも、どうして男が死にたいのかも分からない。

ただ、死を望む素振りなんて微塵も見せなかった青年がそれでも言葉の端々で妻と別れた事、それを後悔しているらしき事を覗かせたように、決して言葉にはしなかったけれど誰かとの繋がりを求めていたように、この男も誰にでも良いから縋る事が出来たらいいなあと思う。
この青年の死が男を追い詰めるだけのものではなくて、男の認識を変える為にこの出会いがあったんだって、そう思いたい。
自分のせいだなんて思わないと良いな。
切ない気持ちになる一本だった。
ふじこ

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