🎬2024年劇場鑑賞52、56、78本目🎬
「テニスの話か?」
「違ったことある?」
もう言っちゃいますけど、これを書いてる2024年8月時点で年間1位確定です。笑
恋愛映画はあまり見ないので正直そこまで期待してなかったけど、1回目見てあまりの面白さに衝撃を受け、2回目、3回目と見たらどのシーンにも全く無駄がなくて驚いた。
いや〜〜本当めちゃくちゃ良くできてる……
まず劇伴がとにかく面白くて、「今!?」っていう変なタイミングと場面に対して絶妙にズレた曲調で、でも音楽自体は爽快でかっこいいからその違和感がなんだか気持ちいい。
後述するが映像もとにかく斬新でカッコよくて美しくて、大画面で何度も観たい作品になった。
内容に関して、まず声を大にして言いたい。
本作を三角関係の映画だとか不倫の映画だとか言ってる人がいるが、違う違う、テニスの映画ですよ!!!(お前も恋愛映画だと思ってただろ)
3人の関係が複雑にこじれそうになる度にしつこいくらいキャラクターの誰かが「今ってテニスの話だよな?」「これはテニスの話よ」とわざわざ発言してくれる。じゃあテニスの映画なんだろう、と3回目の鑑賞で妙に素直に納得した。
「いい試合はまるで恋愛よ。2人だけの世界に行く」
さっきも書いた通り、冒頭からとにかく完璧な映画だ。
タシが初めてアートとパトリックの前に現れた日、タシは水色と緑のコートの上を行き来する。そしてそれを見守る2人は水色と緑の服を着ている。
つまりタシが2人を行き来する話……かと思いきや、同じ場面で初めてタシを見て興奮した2人が相手の太ももを触るカット。
こーーーーいう暗示みたいなシーン、大好物ザマス……(昇天)
暗示で言うと「ゲームチェンジャー」の広告とかも凄い、、時に2人の関係が不安定なことを暗示し、時にタシとパトリックの密会をアートが見ているような構図を作り、そしてあの広告の指示書を作ったのがタシ……
あとは、初めて観た時映画序盤のアートが男性トレーナーに胸筋をマッサージしてもらうシーンがやけにエロくない!?とか、パトリックがホテルのフロントで出会うゲイカップルの会話、表情……なに!?このシーンは!?
と、ほんのり感じていた違和感が2回目に見ると彼らが密かに持つクィア的な部分の暗示だったのだと気付かされる。
チャレンジャーズの受付の人が彼らを覚えていたのも、記憶力いいなーと思っていたら彼女が見たのがタシが手懸けた最初の試合という。何だこの綿密な映画は!??
※この辺から後半のネタバレを含みます
タシが二人の男を同時に愛する……みたいなかあらすじをどこかで見かけたけど、タシは多分最初から2人のことそこまで好きじゃない。
映画を通して2人に惚れてそうなシーンが全然ないし、ただただ目の前のゲーム(ダブルミーニング)を楽しんでいるだけに見える。
じゃあ、そんなタシに振り回されるアートとパトリックが可哀想じゃないか!というと、それも違う。彼らは彼らで全然誠実じゃないからだ。
タシの事を褒める時は外見のこととテニスの才能のことばかりで、彼女にアプローチする時は彼女ではなくお互いを見ている。
じゃあ、そんな2人に振り回されるタシが可哀想かというと……違う。なぜならこれらは彼女の手の内だからだ。
注意してみてるとタシと2人のラブシーンは2人っきりの時でも必ずお互いを意識するようにしているのがわかる。
タシを挟んだアートとパトリックが交互にタシとキスをするシーン、羨ましそうに見つめる視線の先をよく考えて欲しい。。自分とキスをしていない時、彼らに見えるのはタシの後頭部と、恍惚の表情を浮かべるお互いである。
スタンフォードを訪ねてきたタシがパトリックの寮でセックスするシーンも、タシがパトリックのアソコを触っている間はずっとアートの事を話している。
逆にダイナーを出てキスをするシーンでも、タシはキスをする直前に「誰にとって最悪の友達?」と敢えてパトリックの事を頭に浮かばせるセリフを言う。
膝を壊し自らテニスをすることが出来なくなったタシは、2人の最高の試合が見れる日を待ちながらずっと種をまいていたんだろう。(現在までずっとという捉え方もできるし、リリーが産まれるまでの事かもしれない。)
「仕組んでるんだろ?」
「この部分以外は。」
そんな構造が見え始めた頃、ストーリーは大きく舵を切る。
タイヤチャレンジャーでアートとパトリックが再会を果たすのはタシが仕組んだことだった。
テニスプレイヤーとして成功を収めつつも自身の限界を感じて引退も考えているアート。
アート本人よりも"テニスプレイヤーであるアート"に惚れているタシは当然そんな形で引退などさせたくはなく、敢えて1泊分のホテル代も払えないほど落ちぶれたパトリックと同じ大会に参加させ、自信を持たせるつもりだったのだろう。
全選手のデータをノートに取っていたタシなら、当然パトリックがどの試合に出るかは承知だったはずだ。
誤算だったのはそんな彼女の目論見にパトリックが気付いて交渉をもちかけてくること、そしてパトリックが最後に会った時よりもずっと苦労して、大人になって、タシを丸め込む力を得ていた事だ。
そしてそれと同時に、アートはタシの説得も虚しく引退を宣言する。これも大きな誤算だっただろう。
「明日負けたら離婚する」なんて脅しのような言葉を言ってしまうあたり、そしてそれを阻止するために自分の体を差し出してしまうあたり、もう他に手は無いと焦るタシの余裕のなさが見て取れる。
10年以上自分の手のひらで転がしていた2人が、2人同時に自分の手中から出てしまったら当然焦るだろう。
そんな中、映画は最終局面に。
いよいよ彼らの"試合"に決着が着くのだ。
「子供なのね」
「当たり前だ ボールを打つだけの人生だった」
冒頭からダラダラ続いて見えた決勝戦の裏に隠された様々な意図が明らかになり、どちらが勝つんだ!?と目が離せない試合になる。
そんな中、パトリックがサーブの際に見せた"あのポーズ"。
絶対やるだろ!と思わせてからの焦らし具合が絶妙で、満を持してあのポーズが出た時は声が出そうだった。
2人にしか分からない、テニスでの会話。
それをきっかけに、ずっとタシが支配していた2人が突然、全く手が届かない2人だけの世界を作り出す。
瞬間、あんなにも色褪せて見えた現代の試合が芸術に昇華する。
斬新なカメラワーク、ずっと同じ調子だったテーマソングの突然の展開。
何度も言うように全く無駄のない映画でどのシーンを切り取っても好きなんだけど、終盤に向けてスピード感と面白さが増し続けてラストでピークを迎える感覚は格別だ。
これまでタシの方ばかりチラチラ見ていた2人が最後、困惑するタシには目もくれず、お互いをしっかり見据えて高く飛び、最高の"テニス"が幕を閉じる。
そしてそれを誰よりも喜んだのが、他でもないタシである。
最高のテニス、最高の試合。それは2人だけの世界。
タシはきっとあの出会いの日、ダブルスで優勝した美しい青年2人の姿をずっと追い求めてきた。そしてそれが今、目の前で花火のように弾けた。
そうだ、これだったのだ。彼女の存在すらも超越した二人の世界。これをずっと見たかった。
タシが雄叫びを上げ、私は泣いた。
こんな完璧な映画があって良いのかと身震いした。
アートが結局テニスを引退したのか?タシの不倫行為はバレたのか?パトリックはその後テニス選手として上に行けたのか?タシはアートと生涯を共にしたのか?……
そんな事は分からないし、知りたいとも思わない。どうでもいい事だ。
何故かって?これはテニスの映画だからだ。