CHEBUNBUN

バルコニー映画のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

バルコニー映画(2021年製作の映画)
3.5
【バルコニーから語りかけること早2年半】
※以前、ブログで描いた内容の転載です。

CPH:DOXで上映された『THE BALCONY MOVIE』がMUBIにて配信開始となった。本作は2年半、ワルシャワにある自宅のバルコニーから通りかかる人に声をかけまくった様子を記録したドキュメンタリーである。DEADLINEの記事によれば、がん患者を描いた『Chemia』や、発達障害児を養子にする女性を描いた『Werka』などを撮っているPaweł Łoziński監督が次回作のアイデアに困っている時に、バルコニーから人の話を盗み聞きする癖があることに気づき、映画にしてみることにしたとのこと。また、Paweł Łoziński監督はポーランド映画祭で短編作品『配達されなかった手紙』、『なにがあっても大丈夫』、『マイクテスト』が紹介されているマルツェル・ウォジンスキ監督の息子である。早速、観てみた。

「おはよう、ちょっと時間いただけますか?」

上空からの思わぬ声に、女性は狼狽する。

「ごめん、わたしポーランドの人じゃないの。バス乗らないといけないの、すみませんね。」

と去って行ってしまう。しかし、監督はめげずに通りかかる人に声をかける。子どもは興味津々、赤子は目をキラキラしながら見つめ、女の子はアイスを食べながら監督の質問に答えていく。時に監督は手を差し伸べる。ホームレスのような人に上着を与えて、そこでちょっとした親密さが生まれる。段々と、ひょっとしたら編集のせいなのかもしれないが、バルコニーおじさんとして認知されたのか、人々が積極的に雑談をするようになる。娘のために買ったおもちゃを少し恥ずかしそうに魅せる場面が映し出される。では、本作はほっこりドキュメンタリーなのか?

油断をしていると、移民排斥デモがバルコニーの前を通りかかりギョッとする。本作は、何気ない会話を映した作品である。しかし、5mの距離の中で次々とドラマが生まれていく。ネタ自体は日本のバラエティ番組や、YouTubeの動画にありそうなものだが、それらと違うところは監督が一般人と同じ目線に立とうとしているところにあるだろう。そのアプローチは、ポーランドの人々のありのままを引き出すことに成功していたのではないだろうか。
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