はなえ

あの夏のアダムのはなえのネタバレレビュー・内容・結末

あの夏のアダム(2019年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

マーガレット・クアリー演じるアダムの姉ケイシーのセリフがどれも良かった。
トランス女性殺害のニュースを見て泣きながら彼女がニュースで'he'と呼ばれていることに怒り、"It's SHE!!!!"と言うシーン、あそこでトランスジェンダー当事者のイーサンではなく、非当事者(シスジェンダー)であるケイシーが声を上げ、怒りと悲しみを表現していたのは、製作者の意図的なものだと思う。残念ながら、当事者にばかり差別や偏見に立ち向かうことを求める社会では変化は起こりにくい場合が多い。なぜならマジョリティーによってマジョリティーのために作られた社会では、マジョリティーにとって都合の悪い事実を叫ぶ声をかき消そうとする力があまりにも強すぎるから。
この社会はシスジェンダーにとって生きやすい社会になってる。だからこそ非当事者こそ声を上げるべき。
ケイシーがトランスキャンプで、アダムに「あんたがあれ(キャンプファイヤーを囲んでトランス女性が社会に対する怒りを表現したスピーチ)を聞けて良かった」と言ったセリフと、アダムになぜトランス男性が好きなのか聞かれた時に「分からない。ただマスキュリンな女性(これはミスジェンダリングに当たるよな……正確には字幕でなんて書いてあったっけ……確か英語ではmasculine womenって言ってたけど……)が好きなんだ。」と答えたセリフは、当事者が非当事者に対する説明を常に求められ、にもかかわらず傾聴し尊重せずマンスプ(ここでは男性だけでなくマジョリティーがマイノリティーに説教するという意味で)される風潮やなんでも型にはめ、カテゴライズしようとする圧力に対する批判が込められていたように思う。
そして、この映画はアダムの変化だけでなく、ジリアン自身のセクシャリティーの揺れやそれを受け入れる過程と葛藤も描いていて、最後にジリアンが"I'm bisexual!!!!!"と叫んだのは、アダムに対してではなく、自分に対する愛の表現だったと感じた。ジリアンもまた、レズビアンであることを誇りに思いながらも、レズビアンという型から抜け出しにくくするような周りからの圧力を受け、生きづらくなっている社会の被害者だと思う。
ひとつ思ったのは、最後は良い雰囲気で終わらせたかったのかもしれないけど、イーサンはアダムを許す必要はなかったということ。常に偏見や差別を受け、抑圧され、説明を求められ、見えないことにされ、挙句の果てには悪者に仕立てあげられる側であるマイノリティーが、マジョリティーをよしよししてあげる義務も義理もねえ!!!!

p.s.
上映会で観たけど、感想交流にマンスプ野郎がいて全然セーフスペースじゃなかったしそのマンスプ野郎に'さしすせそ'で褒める人がまさかのファシリで思わず目が死んだ。(途中で立ち上がってトイレ行くふりして消えた)
運営の人にはファシリテーターの回し方や知識量、グラウンドルールの設定、セーフスペースを第一に考えることをまた後日連絡して伝えようと思う……せっかく良い映画を観たのにその後面と向かって傷つけられる人がいるなんて最悪すぎるしまじで同じ映画観ました?って言おうかと思ったわ😑
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