はなえ

オスロ・ダイアリーのはなえのレビュー・感想・評価

オスロ・ダイアリー(2018年製作の映画)
2.5
ドキュメンタリーとして、合意形成の一部始終をとらえたという点で、画期的な作品ではある。
しかし製作国がイスラエルとカナダということもあり、完全に西洋諸国のナラティブでストーリーがつくられている。

「平和は白人の言葉だ」(“Tell Me Lies”)
これに尽きる。
作中に“和平”という言葉が何度も出てくるが、“和平”も“戦争”も“対立”も“テロ”もすべて入植者の言葉だと感じた。

日本で生まれ育った私は、平和教育を受け、「戦争はだめ」と習ったが、そもそも私たちが受けてきた教育で“戦争”と捉えられていたものは、本当に“戦争”だったのだろうか?
日本の教育で日本が朝鮮、中国、台湾などを植民地化し、支配し、数え切れない数の人々を殺した歴史を学ばないのは、過去に起きた“戦争”とは、“対等な二者またはそれ以上の者の間による対立”で、結果的にもたらされた被害は“お互いさま”という考えが蔓延している(蔓延させようとしている)からではないだろうか。
そのような考えのもとに平和教育がなされているとすれば、今パレスチナで起こっていることが、戦争/紛争ではなく占領者による被占領者への虐殺であることを理解し、平和の前に解放が必要だという事実にたどり着くのが難しいのも、残念ながら納得がいく。

たとえ私たちの習った“戦争”が実は想像するものと違ったとしても、日本で戦時中を生きた人たちの苦しみを軽視しようとしているわけではない。ただ、その苦しみが誰によってどのような属性の人にもたらされたのかは多様で、慎重に語る必要があると思う。苦しんだ事実は同じでも、経験した苦しみは同じではないはず。

そのようなことを踏まえて、戦争や戦後を経験した世代は特に、“平和”を求める傾向が強いと感じる。彼らが「戦争/暴力反対」と言うとき、それは誰による誰に対するものなのか。“戦争”ではなく占領ではないのか。“暴力”とは直接的暴力だけでなく構造的な抑圧や差別による不可視化されやすい暴力も含んでいるか。

解放なくして平和はない。
平和は取り繕うことができても、解放は取り繕うことができない。
平和を望むなら、まず解放を望むべきだ。

ガザで今起きていることを見ると、イスラエルを止められない社会の責任はあまりにも重い。その事実を加味しても、西洋諸国のナラティブに染まった日本の平和運動を、よりラディカルなものにしていく必要があるのではないだろうか。(もちろん先の世代が続けてきてくれた平和運動は9条を守り抜いているなどという点で非常に意義のあるもので、それ自体を否定/軽視するつもりはない。)

イスラエルはずっと、「“テロの脅威”に対して自衛する権利がある」と主張しているが、その“テロ”はなぜ起こるのかと言えば、元々パレスチナという国が存在していた土地を暴力で強引に奪い、占領し、イスラエルという入植地をつくったからだろう。自ら脅威の原因をつくっておいて“テロの脅威”とは、正直どれだけ馬鹿げた話かと思う。そしてその“テロリスト”を排除するために虐殺をすすめる。そのような行いが新たな“テロリスト”を生むとは考えないのだろうか(実際にはテロリストではなく占領からの抵抗運動)。

とにかく作中のイスラエル側の交渉人たちの口から出る言葉ひとつひとつに腹が立った。そしてその言葉を積極的に広めている日本を含む西洋諸国にも。

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気になった点
・パレスチナを占領するイスラエル軍に対するパレスチナ市民の蜂起(インティファーダ)という圧倒的な力関係がある中での抵抗の一種をイスラエル交渉人が「暴力が激化」と表現していた。

・イスラエルの元軍人がパレスチナ交渉人から挨拶の際に両頬にキスをされたことを「アメリカでもイスラエルでも男同士でキスはしない」と嘲笑い執拗にバカにしていた。(あのシーン自体の真意が不明)

・イスラエル交渉人が「過去にこだわっていては何も変わらない」、「未来を見よう」と言っていた。(イスラエルの占領から全てが始まったのでは?その過去を見ずに未来など築けるのか?)

・イスラエルが「お互いがお互いを恐れている」「信頼を築く必要がある」と言いながら、そこにあるのは封鎖という手段を取れる占領者と自爆テロという形でしか可視化されないような被占領者/抵抗者の圧倒的な権力バランス。

・以下のイスラエル交渉人の言葉・態度(明らかにパレスチナ人を蔑視している)
「パレスチナ人は(この場合は合意を得るという)好機を逃す天才かもしれない(笑)」
「彼らは必死だから、一旦主張を聞いてからnoと言おうと話していた」
「私たちのこと(オスロ合意の対談の様子)がニュースになっている!(ニコニコ自慢げ)」
「挨拶のキスを上手く避けるには握手をしながら肘を掴めばいい(笑)」

・登場人物に女性が1人しか出てこなかった(ほかは全員おじさん)
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