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碁盤斬りのCapeのレビュー・感想・評価

碁盤斬り(2024年製作の映画)
4.2
僕が思うにこの映画の各ストーリーは、”正義は人を幸せにするのか”というテーマで繋がっている。人を救う正義と、一方で多くの人を不幸にする正義がある。人を幸せにしない正義は果たして必要なのか。いろんな事情が噛み合った結果間違いを見逃してもいいのではないか。

浪人格之進はかつて藩に属していた侍だった。当時の彼の真っ当さは同僚から不満を買い、結果濡れ衣を着せられ浪人となったのだ。
ある日囲碁仲間である萬屋のおっさんが囲碁中に50両という大金を無くす。そのおっさんに支える若手は悪いやつじゃないんだけど、立場的に格之進を疑わなくてはいけなくなり、結果的に格之進は再び世間的立場を貶められる。しまいには彼の濡れ衣を当面の間晴らすために彼の娘が自分の身体を担保にして50両を風俗から借りる。年内に彼がその50両を返せなければ彼女の身体は売られるという条件で。
一方で彼に濡れ衣を着せた真犯人が明らかになり、彼の妻の死もまたその男に起因していることを知る。
以上二つの大問題に板挟みになった負け犬格之進は決死の覚悟でまずは仇を取りに真犯人を追う。それが娘の願いでもあるから。

さて、主人公格ノ進は父の教え通り真っ当に生きてきたことに疑問を持っている。従えていた藩では、自分が不正を正したおかげで多くの人が身を追われて不幸になった。彼らが悪いとしても、見逃せば波風立たなかったものが、摘発したことで多くの人が不幸になった。それは果たして正義なのか。

この映画では、多くの”間違いの見逃し”がある。実は初めの段階で格ノ進自身が家賃の滞納を怠っていたり、彼自身にも真っ当でない点があるのは面白い。格之進が真っ当さを萬屋のおじさんに教えたから彼は鬼から仏になり、その緩んだ心が営業して50両をなくすというミスを犯したとも考えられる。そして大事なことに格之進は娘の身体がかかった借金返済に1日間に合わない。これも最後に小泉今日子演じる風俗の支配人によって綺麗に辻褄が合わされる。ここがこの映画の泣きどころで間違いない。

僕の妹は正義を振りかざすタイプで、僕も昔そうだったし、僕の周りにもまっすぐすぎて上手く人を変えられない人がときたまいる。やはりコツは正面からストレートを投げるのではなくカーブでいくことなのだろう。

世は全てを善悪の二進法で区別して上手くいくほど論理的ではない。この映画では、むしろその境界線を人間が裁量で滲ませることの良さを多くの伏線で提示している。心に響く教訓となる。

P.S草薙さん、殊更演技が上手いってわけじゃないんだけど、哀愁漂う感じの華やかさが年取って武器になってきたんだろうな〜。負け犬食いしばり的演技がとてもハマる。萬屋のおっさん役國村隼さん、彼がこの映画唯一の明るさ担当と言っても過言ではない。あの人が出てくるとなんかほっとする。そして小泉今日子さんはいつも通りいいところであの笑顔とひょうきんさを使ってくる、ずるいです、泣きますそれは。小泉さんのあーいう演技はあまちゃんを思い出すんだよなぁ、やっぱり。

映画って面白いな、演技が全てではなくて、それぞれの個性で生きる道があるし、各々の魅力の出し方にいろんなルートが認められる。

正義についてはアルパチーノ主役のセルピコが大好きな映画だけれど、今回の碁盤切りは日本版セルピコって感じで、島国ならではの人間らしさを踏まえた正義観って感じがしてこれまた好き。
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