Cape

何者のCapeのレビュー・感想・評価

何者(2016年製作の映画)
4.2
◻︎プロット
佐藤健演じる二宮拓人は、演劇に情熱を注いだ大学生活を終え、就職活動に勤しむ日々を送る。彼は伊坂幸太郎の小説『砂漠』でいう鳥瞰型の人間である。人生に対しいつも冷静に、俯瞰的に分析を施す。彼の周りには大きく分けて2タイプの人間があるように思われる。

 一方はギンジという男に代表される。学生時代、二宮と意気投合し共同で脚本を担当していた過去をもつ。彼は二宮の歩んだ起業就職というルートを辿らず、演劇に熱をぶつけ続けるルートを選ぶ。二宮は自分の決断できなかった道を歩み続ける彼に憎しみを覚える。「まだ何も成し遂げてないうちに自分の努力をアピールするなよ」彼を中傷する二宮のセリフのほとんどは、自分に向けた言葉なのかもしれない。自分の嫌いな自分の性格を彼に投影していたのかもしれない。ギンジは二宮とよく似ていた。

 もう一方は就活生。就活という荒波に巻き込まれながら、自分を見失い、不合理さを見て見ぬ振りをして、自分の不確実さを見逃して、そこまでしてまでも1人の大人になろうと奮闘する彼ら。

断っておくけれど、おそらくこの映画はどっちがいいという結論は出ていないし、そもそもはっきりさせるつもりもなかっただろう。大事なのは、主人公二宮はどちらにもなれなかったということである。思い切って自分の可能性を試すことも、失望が怖くてできなかった。かといって自分の無能さを受け入れ満点でない自分を世に晒すこともできなかった。

未完成で非完全な自分で人生と勝負するのって結構グロテスクで勇気のいることだ。

◻︎考えたこと①(頑張りを中傷する人間)

自分の人生に誇りがなくプライドがない人間ほどがむしゃらに生きてる人間を卑下しやすい。
逆に考えると自信がなくても駄作でも世に出そうと頑張ってる時に、こういう足引っ張る人のそばにいてはいけないなと思う。

◻︎考えたこと②(誰かの成功を心から喜べるか?)

付き合う友達の様子をどこか見下し続け、自分だけはどこか違うと思いながらも根本的に自信がない主人公。

菅田将暉が最終面接で落ちたあと、宅飲みで酒が回ってもはや論理的でなくなった彼を横目で覗く佐藤健の表情が全てを物語っている。

その一方で佐藤健に内定が出ないことを、本心から不思議がり遠まわりに自信を与えようとする菅田将暉は人間的に優れている。

誰の成功も喜べない性格、僕もかなり共感してしまうところがある。これは、本当に長らくある悩みで。唯一改善されたのは友達の誕生日を自分のことのようにお祝いする気持ち。書くと長くなるので割愛

◻︎演出について
打楽器関連の音源に切り替わるうち、全体的に明るく穏便な演出に急に緊迫感が助長される。この瞬発力がこの映画の鋭さを支えていると思う。それで調べてみたら音楽は中田ヤスタカのようで納得。

うわべだけの自己アピールを低い熱量でせっせと頑張る就活生と、人生を賭けて好きなことに挑むと決め、情熱的に志望動機をアピールする演劇志望の役者。この二者が並行して描かれるシーンは残酷だと思った。
きっと社会的には、一般的には就活生がまともな大人であり、いつまでも夢から足を洗えない役者たちは狂人なのかもしれない。それでも、どう見ても役者の生き方の方が自然であり、人生を生きているように見えてしまう。

朝井リョウ原作ということもあり他にも考察できる点が多くあり、書ききれない。作品にかなり奥行きがあると感じた。
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