ふじこ

TALK TO ME/トーク・トゥ・ミーのふじこのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

これはなかなか、ホラーエンタメとして良かったのでは。

母を事故か自殺か分からぬまま亡くした少女ミアは、母の追悼記念式の日に嫌がる親友のジェイドを説得して降霊会をやっているパーティへ。会場では浮いていたものの率先して憑依チャレンジに参加。90秒以内に終了しなくてはいけないルールから3秒ほど遅れてしまうも、その高揚感に虜になってしまう。
そして後日ジェイドの家で再びパーティを開催。皆代わる代わる憑依されて盛り上がる。
ジェイドの弟ライリーもやりたがるが、まだ未成年なのでジェイドに止められる。険悪な雰囲気になり部屋を出たジェイドに、ミアは50秒だったら良いんじゃない?と勝手に許可をして憑依させる。
しかし乗り移ったのが死んだ母だと思ったミアは50秒を過ぎても手を離させず、ライリーの様子が一変して机に頭を打ち付け、自分の目を抉ろうとする。
戻ってきたジェイドが机と頭の間に手を挟んでなんとか止めるものの、ライリーは重症を負って病院へ搬送される。


この作品に於いての"恐怖"は、ホラー演出や出てくる霊ではなくて、個人的には序盤の方で次々享楽的に行われる"憑依チャレンジ"。その場を盛り上げるためにいとも容易く行われる降霊術の類。
差し出すような形で作られた手の形の像を握ると、眼の前には他の人には視えない霊が座っている。
手を握り直す度に別の人物が座っており、誰か特定の霊を呼ぶのではなくてランダムで勝手に引き寄せられてくる。
つまり"霊ガチャ"であって、その時点で相手にどんな思惑があるのかも分からない。霊が実際にいるのはこの時点で確定であるのだけれど、その相手にどんな意思があって向かいに座っているのかは全く分からない。
なのに、"Let you in"と相手に許可する事で自身の身体に入れてしまう という遊び。
身体は縛っておく、90秒以内に憑依を終わらせなければならない というルールはあるものの、こんなにも危うい遊びをパーティでのお楽しみとして消費する若者のこう…若さ?今その場の一瞬しか考えていない感じが一番恐ろしかった。
どうやら憑依は興奮と高揚感をもたらすようで、だからこそパーティで盛り上がって消費されて、つまりこれはドラッグの置き換えなのかなぁ…と思っていた。

特に信心深い方ではないし、霊も本当にいたら怖いよな~ってくらいのホラー好きだけれども、他の映画で観られるようなウィジャボードや怪しい黒魔術やら降霊術とは一線を画す"気安さ"がなんとも恐ろしかった。本作で一番怖かったシーンかも。
他のは来るかどうか分からないし、来たとしてもいきなり乗っ取られる事はそうそうないし、ワンクッションある感じがする。大抵は呼び出し相手も最初から決めてあるし。違うのが来る事は多々あるけど。
信心深くはないけれどビビりだし、チッなんだよ盛り上がんね~な と言われても別に構わないからわたしだったら絶対にやらないわ…嫌な予感しかしない。例え亡くなっていたとしても見知らぬ他人だし。他人のSNSで消費される危うい所業に価値があるとは思わない。

でもそもそも、パーティに行くような若者はそうじゃないんだよね…。
そして明らかに浮いてた主人公のミアもまた、そうじゃない。周りから浮いていて、誰も相手にしてくれなくて、なんなら自分を嫌っている人がいて、そんな中無理やり参加したパーティで自分の居場所を得るためにも立候補しちゃう。
本作の怖かったところのもう一つがここだった。自分の居場所は自分で作る、って言葉は分かる。自分から動かなくちゃ始まらない事ばかり。でも、これは違わない…?
最愛の母を亡くし、その原因も分からず、父とはうまくいかず、親友の家に入り浸っている。まだ気のある元彼は親友と付き合っている。
この心の隙間というか…癒やされない、満たされていない思春期の危うい精神が、多分映画的には最初の憑依チャレンジで90秒を過ぎてしまった事から入り込んだ霊が残っていて、劇中の台詞では"入り込んだ霊は時間が経てば弱っていく"はずだったのだけれど、ライリーに母親が憑依したと思った事でまた更に揺らいでしまったんじゃないかなぁって。
度々母の霊が視えるようになったのはミア自身に乗り移った霊が勝手に見せている幻覚であって、だから不穏な事しか言わないし最終的に父を刺し、ライリーを葬らせようとする。車椅子を押すミアの背後にいる霊は最早母親の顔をしていなかったし。
冷静に考えれば、母がそんな事を言うだろうか?と思い当たったのかも知れないけれど、言うのが遅いしタイミングが悪かった父が持ち出した母親の遺書。これもまた彼女の精神を追い詰めるだけだった気がする。
母親はわたしを置いて自殺したのか、って、大きな衝撃だよね。受け入れられずに霊が成りすました母親の"自殺じゃない"の方を信じようとしてしまう。
結果だけを見たら、傷付いた寂しい少女が追い詰められて自死 って事になるんだけど…。
きちんと向き合いきれなかった父親や、思っている事感じている事を誰かに訴えられなかったミア自身など、憑依チャレンジがなかったとしても先行きがあまり良くなかった気がする。
タイトルである[ Take to me ]は霊との交信開始の合図でもあり、"誰かに心の内を話せば良かったのに"って意味合いもあるんじゃないかなぁって勝手に思っている。

勝手にライリーの参加を許したり、自分のせいでもあるのに全く自覚なしに病院へ行って追い出されたり、親友の彼氏である元彼を家に誘ったり、浮いているのはこういうところなのかなぁ…って感じがして確かに好感を抱きにくいのだけれども、死んでる人間に好き勝手されて死んでいい訳ではない。可哀想な子だったなぁって。
ライリーもまた少年心にイイカッコしたかっただけであって、あんな目に遭っていい訳がないし。
この映画で一番まともだったのって親友のジェイドだったんじゃないかなー

ラストシーンはとても良かったな、分かりやすく印象に残るし。
てっきり劇中で言ってたもう一つあるらしい手を使ってるのかなって思ったんだけど(異国だったし)、差し出された手を見るとミア達がやっていた左手の模型っぽいよな。両手が左手の人だったんじゃないとしたら、ミアが持っていたアレが海外に流出したって事?
最後の病院を彷徨うシーンに映される背景が現実なんだとしたら、すっかり良くなったライリーとかを見るにかなり時間が経っている感じ…?
あの手って結局なんだったんだろうな~。

しかし、エンタメとして恐怖を弄ぶ劇中の若者達と、エンタメを享受したくてホラーを観るわたしとまぁ本質的には同じなのかな…。

それにしても、監督はyoutuberをやっている双子の兄弟って事だったけれど、初作品でこれはなかなか凄い。
続編が既に決まっているそうで、ちょっと期待している。ミアの話はここで終わった訳だけれど、次は全く別の場所での話になるのかなあ。
ふじこ

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