NaokiAburatani

12日の殺人のNaokiAburataniのレビュー・感想・評価

12日の殺人(2022年製作の映画)
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名探偵も名刑事も出て来ない実録刑事モノ風いぶし銀クライムミステリー。

ドミニク・モル監督の前作「悪なき殺人」が面白かったんで鑑賞。前作は荒唐無稽な様で現実にも起きそうなストーリーのリアリティラインにおける絶妙なバランスが良かった様に記憶している。
それに対して本作は題材の事件が猟奇的であるものの、展開含め現実的な方向に比重が大きかったように思える。例えるならば、ドラマチックな展開のない「スリー・ビルボード」と言ったところか‥人によっては進展のない捜査状況に退屈するかもしれないが、中々どうして、あと一歩で糸口が掴めそうで掴めない展開にヤキモキしてしまい、飽きは来なかった。
予告と冒頭のテロップで予想はしていたが、話はスッキリしないが、希望のあるラストだったのもスリー・ビルボードっぽく感じた。

勿論クライムミステリーとしても楽しめるが、この作品においてはそこが肝でなかったように思える。
作中でも言及されていたが、刑事課は究極の男社会であることは現代においても変わらない。印象的だったのは、刑事課の男達が、男性が女性に犯罪を犯すことが常であることに対して冗談交じりに談笑していたのに対して、被害者の女性の友人がそれに対して涙混じりに訴えていたことが対比となっていたシーン。事件解決のためとはいえ、被害者の日常を暴いていくことには何とも言えないバツの悪さがある。
それに加え、そもそも刑事たちは犯人が男性であることを決め打ちしていたのも一種の先入観という偏見や差別意識であるように思えた。
その他にも、有害な男らしさの象徴とも言えるべき刑事の一人が被疑者に暴力を振るうシーンは2023年度のアカデミー賞のビンタ事件を連想した。

登場人物たちの描写が生々しく、刑事も残業代気にしたり、家庭に問題抱えたりしてる一人の人間であるように描かれていたことが、この作品によりリアリティを持たせていた。作中でも言及されていたように、あくまで作中の事件は警察が対応しなければいけない多くの事件の内の一つであるということがタイトルに表れているということもその要因の一つに思える。

地道で堅実な捜査が決して実を結ぶ訳ではなく、時には逸脱したこともしなければ進展すらしないのは歯痒い思いだ。
3年経ってもなお現場に蠟燭を手向ける両親の姿に胸が痛んだ。

異動した刑事が花を愛でる気持ちを得たり、新人女性刑事の加入、主役刑事の趣味であるサイクリングがトラックという閉じられた輪から公道へ飛び出したことが、事件や社会問題が進展することの暗示であることを切に祈る。
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