2025年103本目
声は届く
『花束みたいな恋をした』の脚本・坂元裕二&監督・土井裕泰が再タッグ。
広瀬すず、杉咲花、清原果耶がトリプル主演を務め、東京の片隅で暮らす3人の女性が織りなす日常と究極の“片思い”を描き出す。
相楽美咲、片石優花、阿澄さくらの3人は、東京の片隅に建つ古い一軒家で一緒に暮らしている。それぞれ仕事や、学校、アルバイトへ毎日出かけていく彼女たちは、家族でも同級生でもないが、お互いのことを思い合いながら楽しく気ままな日々を過ごしている。もう12年、ある理由によって強い絆で結ばれてきた3人には、それぞれが抱える“片思い”があった……。
脚本は坂元裕二のオリジナル。共演は、横浜流星、小野花梨、伊島空、ロックバンド「moonriders」、田口トモロヲ、西田尚美など。当初2024年の公開を予定していたが、撮影中に起きた交通事故のために延期となった。
『花束みたいな恋をした』で高い評価を得た監督・土井裕泰さんと脚本家・坂元裕二さんが再びタッグを組んだ本作は、タイトルやビジュアルからは想像もできない、静かで力強い物語だった。
主人公は、現実とどこかズレた日常を生きる3人の若い女性たち。誰かに恋をする気持ち、誰かに気づいてほしいという願い、自分の存在を肯定したいという切実な祈り――それらが「片思い」という言葉に込められ、静かに響いてくる。ここで描かれる片思いとは、恋愛感情に限らず、より普遍的で、より深い「一方通行の想い」のこと。
劇中では、3人の登場人物それぞれが誰にも気づかれず、触れられず、言葉も届かないままに、誰かに対して心を寄せている。そこには、ままならない現実への不満や、過去の傷、未来への不安が静かに重なり、それでもなお誰かを想おうとする優しさが通底している。
広瀬すずさんは、どこか達観したようで、でもふとした瞬間に年相応の脆さをのぞかせる難役を自然体で演じきり、杉咲花さんは心の奥を静かに言葉にする目線の強さで観る者を引き込み、清原果耶さんはどこか子供のような純粋さを繊細な表情で体現している。3人のバランスが非常に良く、まるで実際に一つ屋根の下で長年を過ごしてきたかのような自然な距離感がスクリーン越しに伝わってくる。横浜流星さんが演じる青年もまた、長い間抱え続けてきた想いを静かににじませている。彼の目線や沈黙にこめられた「言えなかった気持ち」に、胸が締めつけられる。
また、彼女たちを取り巻く日常の風景――渋谷の街並みや、夕暮れのバス、どこか懐かしい一軒家など――が物語と深くリンクしており、観る側にも「知っているはずの風景が、なぜか違って見える」という感覚をもたらしてくれる。
主題歌“声は風”も非常に印象的。幾重にも折り重なるハーモニーと、誰かに届くことを信じるような詩情あふれる歌詞が、まさに本作のテーマを音楽で語り直しているようで、ラストに向けて感情がこみ上げてきた。