うかりシネマ

さらば、わが愛/覇王別姫 4Kのうかりシネマのネタバレレビュー・内容・結末

-

このレビューはネタバレを含みます

京劇「覇王別姫」(四面楚歌の元となった項羽と虞美人の最期)を演じる蝶衣と小樓を描く。1920年代から1970年代までを舞台とし、二人は盧溝橋事件、第二次世界大戦、文革と歴史の波に翻弄されていく。

閉鎖的な養成所で育った二人は同性でありながら惹かれていくが、小樓は妻を持ち、項羽と虞美人のように永遠に京劇を演じ続けたい蝶衣は離れてしまう。
妻・菊仙は平穏な生活を送りたいが、小樓には京劇しかなく、その夢も叶わない。
寄せては返すように二人は別れることができないまま離れては近付いていく。

戦後から文革の激動の時代には、共産主義思想に呑まれた人々によって立場を追われ、京劇も弾圧される。本編ラストに当たるこのパートでは、人間の弱さが徹底的に描かれ、悲惨極まりない。
幾度となく繰り返される「運命に従う」というモチーフのとおり、蝶衣は最後にようやくその願いを叶える。

俳優になるために母親に指を切り落とされた蝶衣の多指症は、消せない痛みを伴い続けるメタファーだろう。
娼婦の私生児として生まれ捨てられた蝶衣、娼婦から身請けされるも蔑まれる菊仙、恋敵の蝶衣を憎みながらも母親となる菊仙、生きるために娼婦のような真似をする蝶衣と、連なるモチーフも興味深い。

字幕翻訳は戸田奈津子。ほとんどのシーンで問題はないのだが、「◯◯とか」(言い換えるなら「だとか」、「らしい」)や「〜ので?」(言い換えるなら「ですか?」)といった“なっち語尾”がいくつか使われていた。字数を一文字でも削りたいからなのだろうが、どの作品にも必ず二箇所以上はこれがあるので、私はマーキングのつもりで意図的に入れているんじゃないかと踏んでいる。
また、原語字幕が表示されているであろう箇所が日本語字幕のみになっていたのはかなり残念。<ミッション:インポッシブル>シリーズ初期でも同じことが行われていたので、おそらく戸田奈津子のディレクションだと思われる。