とむ

ミッシングのとむのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.2
抉られまくる。。。
ここまで来ると逆に泣くことができない。
映画館で観れて本当に良かった映画でもあるが、こちらのメンタルが持たないので今後2回目を観ることができないような気がする。

本作で印象深いのはやはり石原さとみ。
観た人誰もが言うことだと思うが、本当にすごい。
ある悪戯電話のシーンでの石原さとみ演じる沙織里の反応は、本当に辛すぎて正直スクリーンを直視出来なかった。劇中の中村倫也と同じ気持ちになる。
と同時に、悪戯電話してきた奴。ほんとーーうにふざけんなと思うし、映画館でそのまま憤死するんじゃないかと思うくらい憤りを感じた。(こういうことする奴はぶん殴ってもいいという法律が確かあったと思う。)
だがその「可哀想な母親」だけにとどまらないのが本作のすごいところである。
ロングインタビューのシーンにおけるカメラマンからあるツッコミを受けた時の沙織里の冷静さ。
この人はある程度演技をしてたんだとわかりゾッとしつつも、合理的に考えてそれは正しいことだとも言える。
ただおそらく彼女はそれを計算してやってるわけではなく、出来ることならなんでもやるという気持ちでここまでできるように「なってしまった」といったところだと思う。
そのようなグチャグチャの心境をグチャグチャのまま映像に映し出されるため、こちらの心境もグチャグチャになる。

そして感情移入してしまったのが中村倫也演じるテレビ局職員、砂田。
誠実であろうと行動するが、それでも要所要所で沙織里たちを傷つけてしまったり、テレビ局の求めているものに対しても不信感を抱き職場でもうまく立ち回れなくなってくる。
どう行動することが彼にとって正解なんだろう、とこちらも考え込んでしまうほど難しい。
考えすぎるほど考えないといけない、というような砂田本人の言葉があったが、僕から見て砂田はめちゃくちゃ考えてると思うがそれでもまだまだ足りないんだろうなと思わされる。
ホントどうすればよかったんだろうか、、、
映画の始まりが娘が行方不明になった後というのが、観客の視点がむしろ当事者に寄りすぎないようにバランスをとるという意味で結構重要なことだと思う。
そういう意味で砂田的ポジションの視点で映画を観ることになり、めちゃくちゃ考えながら観ないといけない状況に誘導されているような気がする。

青木崇高演じる沙織里の夫も、辛い気持ちを抱えながら気丈に振る舞おうとしているのがヒシヒシと伝わり、胸が締め付けられる。
本作で個人的に一番尊敬するのはこの旦那である。

沙織里の弟の描き方もまたいい。
公園のインタビューでの非協力的な態度にブチギレた沙織里が、弟の耳元で「お前殺すぞマジで、、、」みたいなことをゼロ距離で囁いてるのは、正直ちょっと笑ってしまった。
確かに褒められないことをしてはいるが、彼も彼なりに辛い気持ちを持ちながら、それをどう行動していいのかわからず何も出来なかったんだろうな、とも思う。

人物の描き方がとにかく複層的で、本当にいい映画であるが、同時に二度と観たくない映画。
とむ

とむ