へび

ミッシングのへびのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
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後半にネタバレ含みます。
ーーーネタバレ無し感想ーーー
緩急の付け方が異常に上手い映画。本編中には無駄なBGMはなし。石原さとみをはじめとする役者たちのリアルな演技を観れます。このリアルな演技というのが、もはや現実の領域。ドキュメンタリー映画と勘違いするレベル。壮大な音響やBGMだったり、一拍置いてからの決め台詞だったりはフィクションをフィクションたらしめるものとして分かりやすい表現方法ですが、本作が唯一フィクションとして表現していたのは時間の過ぎ方です。行方不明になった子供を探すストーリーですが、当人達の時間はとてもゆっくりに感じるようになっています。それもそのはずで、彼らの時間は子供がいなくなったその日から止まっているんです。ただ自分たちが生きていくだけの時間が流れ、心は全く前進しません。時は流れるのに心情がずっと停滞しているので、シナリオとしてのテンポが悪いとも言えますが、主人公達と同じ心境になるのに時間は要しません。すごく気持ち悪い気分になります。あまりにもリアルなので、共感能力が高い人は気分悪くなるかもなので注意です。特に女性と男性で意見が割れそうでもあるので、カップルで観るのも注意です。基本的に報道が絡むストーリーなので、現代メディアへの風刺でもありました。中村倫也演じる記者は、純粋さと善意の空回り加減が絶妙なバランスでした。ありのままを報道することが正しい場合と間違いの場合がある難しさを痛感しました。一度だけ関わった相手は他人ですか?長い時間関わっている相手でも他人は他人ですか?他人のことを本気で考えてあげられますか?snsでの繋がりは所詮他人なのですか?snsはなぜ他人の気持ちを考えられないのですか?そんな疑問をグサグサと投げかけてくる、そんな映画です。


ーーーネタバレ有り感想ーーー
細かいストーリーについては省略して、随所で気になったシーンを共有します。
まずは、主人公が母親(子供目線だとおばあちゃんです)にキツく当たってしまうシーンです。よくある話で、やれるだけのことはやっているのに、母親が口を出してきてイライラする様子がリアルでした。自分の温度感と周りの温度感が異なることによるすれ違い、誤解がとても心苦しくなりました。思い込みで相手の気持ちを決めつけ、何故か孤独になろうとする衝動的な心理や、結局1人では無力なことを分かっているために余計な罪悪感が上乗せされていきます。子供の失踪に関係する全ての登場人物が最終的には自分を責めることしかできず、作中では2年以上も前に進めずにいました。前に進むというのもおかしなことですが、世間にとっては他人事という残念な描写がいくつも成されています。
次は、分かってるのと受け入れてるのとは違うというような台詞です。誰が言った台詞か忘れました。理解と受容は同時には起こらないというのが妙に腑に落ちました。理解はできるけど受け入れられないということは日常でもよくあることなので、それを台詞として言語化したことで、主人公たちが今置かれてる状況も含めて受け入れられてないことが伝わってきました。世間にとっては子供1人の失踪でも、当事者にとっては災害直後のような感情を抱いていることを上手く表現していました。
次に、赤の他人を本気で心配できるのは何故かという問いです。台詞にもあったかもしれません。途中、似たような失踪事件が起き、主人公達はこれを他人事とは思えず、いち早く行動を起こします。自分達にとってもプラスに働くと考えていたので、まるで利用したかのようにも見えます。しかし、その事件の解決後は自分達の子供に関する手がかりは何も無かったのに対し、主人公は本当に良かったと、自分達のような人が増えなくて本当に良かったと心から安堵する様子が描かれました。これに対して夫は、すごいよお前みたいなリアクションを取りましたが、本当にその通りで、自分の子供は見つからないのに他人の子供が見つかって喜んでるなんて、文面だけ見たら狂気です。作中ではいくつもイタズラを受けるシーンがありますが、ここまで胸糞悪い仕打ちを受けていても、他人を思いやる心だけは死なないものだなと感心して見ていました。余談ですが、子供が見つかったとの知らせを受けて警察署まで行ったのにイタズラだったというシーンで、興奮と絶望で失禁するというのもなかなか責めた台本でした。
最後は、考えすぎるくらい考えましょうよという記者の言葉です。これは記者を演じた中村倫也の心からの叫びのようにも感じました。今のマスメディアは価値のある記事を作ることに重きを置きがちで、真実が誇張表現されたり、話題にならないような事件は報じません。それでいて報じたことに関しては責任を持ちません。二言目には真実を報じただけと吐き捨てます。報じられた当事者たちのことなんてまるで考えていないのです。中村倫也が演じた記者はそのメディアの在り方に不満を持っていますが、どうしても抗えないのが現実です。本作ではその事件の当事者がある親子だったわけですが、このsns時代では誰もがその被害者に成りうる恐ろしさを実感しました。
現代社会への風刺的な作品でもあって、個人的には見て良かったと感じました。
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