ククレ

ミッシングのククレのネタバレレビュー・内容・結末

ミッシング(2024年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

今、一番注目している吉田恵輔監督の作品。とても楽しみにしてたけど、同時にとてもしんどくなることも覚悟して映画館に行った…。
折しも昨日、熊取町の「吉川友梨ちゃん事件」のドキュメント番組を観たんやわ。昨日でちょうど20年経ったんやね…。「行方不明になった我が子を探し続ける」という先の見えない苦しみは、「子を持つ親」としては想像するだけで頭がおかしくなりそうやわ。
この映画は、あの事件とオーバーラップする部分が多い。リアリティのある演出と壮絶な演技で、感情を揺さぶられまくったで…。私はずっと、青木崇高が演じる夫に共感して観てたけど、相当に苦しかった。

でも、今年たくさんの賞を獲るであろうヒューマンドラマの傑作やと思う。
これから観る人は、ミステリーやサスペンスではないことを踏まえた上で、あまり情報を入れないようにして映画館に行くべきです。

以下はネタバレ(必ず観たあとに読んでください)…












何と言っても、石原さとみが凄まじい!感情むき出しで半狂乱になって泣き崩れるシーンがたくさん…。だから、(いい意味で)引いてしまって、沙織里には共感できへんかった。隣にいる夫の豊の立場で「おかしくなっていく妻をどう支えればいいのか」と考えながら観てたんやわ。

パンフに書いてあったけど、2021年の作品「空白」から派生したストーリーとのこと。「辛いことや耐えられないことがあったときにどうやって折り合いをつけるか」というテーマらしい。「空白」は娘を事故で失った父親が娘の死を受容していく過程を描いてたけど、今作はそれよりも残酷やで。だって、娘が「生きているか死んでいるかもわからない」状態やから、延々と結着がつかない。2時間のストーリーの中で、事件自体は失踪当時から何も進展しない!ビラ配りや地方局の報道くらいしかできることがない、という無力感…。(熊取町の事件では、「30歳になった友梨ちゃん」の似顔絵を公表してたわ…)

中村倫也演じる報道記者の立場も良かった。とても誠実で、真摯に沙織里たちに協力するけど、テレビマンとしては不器用。でも、マスコミなんてそんなもん。視聴率が全てなんやから、鮮度のなくなったネタは見捨てられるんやね。

弟の圭吾の葛藤も切なかった。もともとコミュ障やから、事件の責任を感じていてもうまく言葉にできない。姉から責められても何も言い返せない。インタビュー受けても不審な印象しか持たれないから、さらに疑われていくんやね…。途中までは観ている私も「もしかして実は犯人?」と感じたくらい。だから、車の中で、やっと姉に謝ることができたシーンがとても良かった。BGMはあの「BLANK」…。沙織里が思わず笑ってしまってるのがポイント。あのシーンを境にして、沙織里の心持ちが変わっていくんやな。

ビラ配りのときに「さくらちゃん」の母親からお礼を言われるシーンが秀逸!豊が声を抑えて泣くんやけど、それまで妻のために我慢してきた感情を、やっと吐き出すことができたんやね。自分たち夫婦がしてきたことの意義を、はじめて感じられたんやね。ここが一番感動した。一緒に涙が出た。

結局、何も解決しないまま終わる。でも、明らかに2人の表情が変わってるで。朝のシーンでは、豊はルーティンワークみたいにビラを持って出ていく。もう「日常」になってるやん。
ラストシーンの沙織里のリップロールが、全てを表していて素晴らしい!これからも探し続けるし、全く先は見えないけど、新しいステージに至ってることがよくわかる。「折り合いをつけて生きていく」というテーマがしっかりと伝わったで。

パンフがすごい。なんと、「シナリオ決定稿」が全部載ってるで!本当に素晴らしい脚本やと思う。1200円で高めやけど、改めて見直したい人は是非どうぞ。
ククレ

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