ひでG

ミッシングのひでGのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.3
草彅剛の「碁盤斬り」と同日公開作。ひょっととして5/17日は、今年度の主演男優・女優賞ということになるかもしれませんね。

いろいろ書きたいことが多いのですが、まずは石原さとみさんのことから。
(1)石原さとみ
聞くところによると、石原さとみ自ら吉田作品への出演を熱望したとのこと。吉田恵輔監督によると、クランクアップ当日、ガチガチに固まっていた石原さとみがそこにいたという。彼女がこの役にどのくらい賭けていたのかが推し量れる。
それまでの石原さとみはいつでもどの役でも石原さとみを演じていた。(「そして、バトンは渡された」の母親役などもその域を出てないと思った。)
そこから脱したい!変わりたい!その熱意が本作を形作っている。
劇中、終始彼女が演じる沙織里は極限の悲しみの中にいる。泣き叫び、怒り、もがきく。
彼女の慟哭を常にフルアクションで示してくれた、これ以上ない熱演には驚きと感動しかない。

「どうか、どうか助けてあげてください。」
「親子が再会する場面を見せてください!」
いつしか、私は祈るような気持ちで沙織里夫婦とともにこの映画時間を過ごした。
(沙織里とともに号泣した場面は、ネタバレのコメント欄に書きました。)

もう、地獄のような日々の中で、微かに、本の微かに差し込む淡い光。
人は人をギリギリのところで赦すことができるのだろうか。希望なんて言葉は安易に使えない。でも、この後もあの夫婦には生きて行って欲しい。

僕は、沙織里さんの最大の希望は、青木崇高か演じる夫豊だと思う。
不幸に見舞われて家族がその後に、家族や夫婦が崩壊してしまう例はよくある。
豊さん、貴方も同じように辛い日々なのに、沙織里の剥き出しの感情をぶつけられても、最後まで寄り添ってきた夫。青木崇高も魂の演技だった。

(2)吉田恵輔
良作、問題作連発の吉田恵輔監督。特に「空白」は、日本映画史に残るハイクオリティの映画だと僕は思っている。
人物が複合的に描かれ、抱えきれないほどの悲しみや絶望を味わう。何が悪か正義か簡単には線引きできない。脇役まで恐ろしいほどリアルに弱さや脆さもあぶり出していく。店長に励ますポジティブ暴力の寺島しのぶなど、多くのキャラクターが悪と善を行ったり来たりする。

それに対して、本作は、「空白」に比べて、悪と善、加害と被害ははっきりしている。
ただ、その悪はさらに凶暴に被害家族を呑み込んでいく。
本作で悪と善の狭間で悩んでいるのが、中村倫也演じる地方テレビの砂田だ。
中村倫也もキャリアの中でもトップ作になったと思う。砂田の悩みの中に、現在の爛れた姿をひとりで体現する役。見事です!

子どもが失ってしまった親。こんな重く、ちょっと間違えれば、その人たちをさらに傷つけしまうような重い重いテーマに挑んでいったスタッフとキャストたちの魂の作品に心を打たれました。
私たちは、日本映画ファンとして、その想いを伝えていきたい。
ひでG

ひでG