金宮さん

ミッシングの金宮さんのレビュー・感想・評価

ミッシング(2024年製作の映画)
4.5
吉田恵輔監督のオリジナル脚本作品は、そのエグ味出しにおいて題材選びや事件の展開におけるケレン味=過剰な悲劇の連発に頼らない。あくまでそこに関わる人間の脆さや悪意を、非日常ではなく生活の延長線上として描くため、追体験の解像度が非常に高くなる。

今作もあらゆる人たちにリーチする違和感が様々に提示されるのだが、個人的には報道云々に関してのシークエンスは既視感もあってあまり刺さらず。やっぱり主人公夫婦2人の機微に目を奪われる。

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2人が置かれている環境はとてつもない苦境であることは間違いない。しかしどうしても、母からは捜索への忘我による社会性の欠如っぷりが、父からは無関心と見られても仕方がない冷淡な口ぶりが、どうしても気になってしまう。

それは劇中の2人も同じようで、夫の煮え切らなさとそんな妻への辟易がたびたび激突する。このあたり、陰惨な事件抜きにしても夫婦喧嘩あるあるとして成立しており、鑑賞者もなんとなく心当たってしまう。だからこそ自分もこうなりそうだなとリアルな恐怖につながる。

また別の角度でザワザワしたのは、中盤でのロングインタビューでの「娘が失踪していた時の自分が音楽ライブに行っていたこと」を必要以上にこすり倒してしまう母親の発言。どうしても、その事実を揶揄するネット民へのエクスキューズに見えてしまった。そう見えてしまうことが無神経なのは流石に自覚しているので、誘導する監督の底意地の悪さを相変わらず実感する。

その直後に畳みかける「なんでもないようなことが幸せだった」のくだりも、確かに自分も連想しちゃってたなと、無関心の共犯者にされているような気分。監督はこれまでも人の嫌なところは散々描写してきたが、ここにきて鑑賞者も巻き込む応用的な手法はとにかく居心地が悪い。

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いつもならこの空気感のまま、観客にもモヤを残してどんより終えていくのが吉田作品。それはそれで劇薬のような反面教師を味わえるのだが、今作はひと味違う。軋轢がじんわり融解していくことによる、希望というか折り合いみたいなものがやんわり顔をみせる。

時間の経過とともに「母親の多情多感は他人事の喜びにすら及ぶ、あまりに強い共感性」「父親のどこか冷めた態度は粛々と前進するための沈着」そんなようなポジティブな要素が段々と見えてくる。

明確なシークエンスこそないが、そこに目が向くようになった結果お互いの不満は改善したのか、若干ではあるが憑き物がとれたような印象が終盤には漂い、少なくとも2人は新たな行動に移っている。誹謗中傷に対して「くだらない」的に笑い飛ばすシーンはそれを端的に表していると読み取った。

そしてこの展開は、序盤は2人の主人公を「こうならないように」と見てしまっていた鑑賞者にも、「暖かい視点を持てば相手の見え方が変わる」という反面教師にとどまらない前向きな教訓を伝える効果も生んでいる。

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これまでの吉田作品の中でも突出した絶望を、この夫婦がこれからも完全に払拭できるのは難しいと思う。そして吉田演出は未経験でも我が事のよう見える毒も含んでいるため、他人事には思えない恐れを巻き起こす。

それでも生きていくには?すぐ側にいるはずの理解者と歩み寄って、希望とは言わずともほんの少しの活力を見出していくしかない。実は夫婦2人の関係性のみではなく、醜聞だらけだと思いこんでいた周囲の人々のなかにもうっすらと優しさを含ませてくれているのも、監督が配置したメッセージの表れだと思っている。

自分の行動など無関係に襲ってくるいつ起きてもおかしくないすぐそこにある悲劇。しかも一度起きてしまえばそいつは、いつまでも自分を離さないという不条理。

そんな題材を扱うときに限って、投げっぱなしにせず、悩んだうえで希望めいたものを描いてくれる吉田監督は本当に信頼できる。YouTuberとか兄弟喧嘩とかロリコン浮気DQNとかを描くときは容赦なく観る側のメンタルをズタボロにしてくるくせに。

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『佐々木インマイマイン』の佐々木を演じてた細川岳さんが出演している認識はあったのだけれど、カメラマン不破だとは途中までまったく気づかなかった。「エンドロールで、え?出てたの?」系俳優さんが一番凄いと思ってるんですが、佐々木で存在感しかなかった細川さんがまさかそのタイプでもあるとは。

くしゃくしゃのビラを物撮りするヤラセをしているシーンとかめっちゃ良かった。

おそらくメジャー系作品での出演は今作が初。大躍進の足がかりになる気がしている。
金宮さん

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