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私がやりましたのtakのレビュー・感想・評価

私がやりました(2023年製作の映画)
3.9
フランソワ・オゾン監督は、本作を女性をめぐる状況を笑いを交えて描いた三部作の一つと位置づけているそうだ。世代の違うそれぞれが抱える思いが印象的なだった「8人の女たち」、飾り壺のように扱われていた妻が会社で大活躍する「しあわせの雨傘」。そして本作「私がやりました」は、殺人事件に巻き込まれた売れない女優と駆け出し弁護士、2人のヒロインが窮地を逆手に成り上がっていくストーリーだ。

オリジナルの戯曲は1930年代に書かれたものだが、オゾン監督は現代を生きる女性にも重なる生きづらさを加えた。冒頭、ヒロインのマドレーヌは、端役にキャスティングする代わりに愛人契約を結べと映画プロデューサーに言われ、怒って帰宅する。ところが、そのプロデューサーが誰かに殺される事件が発生。世界を騒がせたワインスタインの性暴力事件が重なる仕掛けだ。弁護士の友人ポーリーヌと共に疑惑を正攻法で晴らすのかと思ったら、マドレーヌをどうしても犯人にしたい予審判事を利用して正当防衛のシナリオをでっちあげる。そして彼女たちは法廷と言う名のステージで大芝居をして、世間の注目を集めることに。ところがそこに一人の女性が現れる…。

ワインスタインを思わせる件だけではなく、登場する男たちはみんな女性を見下している輩ばかり。法廷で大演説をする検事は「女をつけあがらせるな!」と言い、傍聴する男性から拍手を浴びる。そこにポーリーヌが、男ばかりの陪審員と傍聴席に、社会の厳しさゆえに戦わなければならない女性の立場を訴え、女性からの拍手を浴びる。30年代のフランスはまだ女性参政権もない時代(認められたのは1945年で日本と同じ)。厳しい状況から彼女たちが快進撃を続け、最後にはクズな男たちで笑わせてくれる、ビバ!女性!な物語はなかなか楽しい。

嘘をつき通して世に知れ渡ると勝手に真実と扱われてしまう怖さ。そこを笑い飛ばすのがこの話の肝とも言える。だけど、映画館の暗闇でニヤニヤ笑いながらも「ええんか?」と心の片隅で現実的になってる自分もいるw。

「危険なプロット」のファブリス・ルキーニ、「すべてうまくいきますように」のアンドレ・デュソリエ、そして「8人の女たち」にも出演したイザベル・ユペールら、オゾン監督ゆかりのキャストたち。ブロンドとブルネットの髪色のヒロイン。ヒッチコックの「めまい」を愛する僕は、この髪色の対比にどうも深読みをしてしまいがちw。少なくともこの映画では、お互いにない魅力をもっていて、それをお互いが認め合って、それぞれを妬みもしない関係に映る。素敵なヒロインに拍手を贈ろう。
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