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キリエのうたのTのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「ラブレター」と「花とアリス」と「スワロウテイル」と「リップヴァンウィンクルの花嫁」を全部やってた。

監督が人を支えるものとしての音楽を本気で信じているようで好き。
フォークでなくてクラシックギターなのがいいよね。

重い荷物を持って移動するところを下から煽るようにスローモーションみたいに撮る映像は相変わらずでとてもいい。
歩く映像だけでその人が語られる。


スワロウテイルとPicnicが人生で一番好きな映画であることを断った上で、この映画は少し物足りなかった。

アイナがcharaに比べて物足りないとは全く思わないけど、キリエの物語というよりはアイナを撮ろうとしてる映画に見える。それが物足りないのかも。
アイナが全てを飲み込んでいるほど魅力的というよりは、監督がアイナ好きすぎるんだろうという気がしてしまう。

あるいは、スワロウテイルのときにあった街の雰囲気は、全員が本質を見ないようにしていた浮ついた1996年の日本の空気が大事で、重要なことを直視しなきゃいけなくなった2023年の日本には出せないのかもしれない。

あとは街の名前が消されてないのもあるのかも。イッコとキリエが歩いてたシーンの新宿は御伽話感があったけど、それでも新宿が残ってた。


性的暴行のシーンの必要性が分からなかった。
キリエの台詞も相まって、エンタメ映画のエロいシーンとしてコンテンツ化され消費しているように思えてしまった。

別に監督独特のエロの目線が入るのは全然歓迎で、ヴァンパイアで太もものヒルを吸うところとかは、全面に癖を出していて良かったと思う。

キリエの恐怖を描きたかったなら、リップヴァンウィンクルの別れさせ屋みたいな感じでも良かったんじゃないか。

スワロウテイルでアゲハとグリコが襲われるシーンは、男の方にしょうもなさがあったし、ちゃんと殴り飛ばされるから良かった。

気持ち悪い男を演出したいなら、アゲハが面会に来るたびに弁当をチェックする男みたいにすればいい。

今回のシーンは、監督の癖をちゃんと主張したわけでもなく、性欲を出した男、あるいは恐怖の男を描いたにしてはオリジナリティのないステレオタイプだった。
キリエにもリッコのためならいいですとまで言わせていて、わざわざ観客をそそらせるような感じになっていて、単にエロシーンを見どころとして入れただけに見えてしまった。
強いて言えば、「純なものほど汚したい」みたいな癖ということなんだろうか。
でもそんなの全然ありふれてて消費されるためにあるようなテーマだよね。
ここは納得いかなかったな。


こう言いつつ、地震の瞬間が下着だったのは、そんなに違和感はない気がする。
こんな白い綺麗な体が、降ってきた木材や鉄骨に傷付けられてしまうのかもしれない、という緊張が強調された気がする。
せっかくこんなに美しいのに、擦り傷でもできるんじゃないか、みたいな。
(別に擦り傷ができたら価値が下がる、みたいなことを言いたいわけではないです。映画が女性の体の美しさみたいなものを強調することは多々あって、それに対して体が美しくなければ価値がないのか、と怒るのは変な気がする。)
でも微妙かな。これもエンタメの範疇なのかな。
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