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PERFECT DAYSのmanamiのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
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すごい。これはすごい。すごいものを見せてもらった。映画かくあるべしという矜持がこれ以上ないほど熱く、しかしそれでいてとても静かにみなぎっている。
トイレ清掃員・平山の朝は早い。掃き掃除の音、水やり、缶コーヒー、カセットテープ。自転車、銭湯、行きつけの店。休日には掃除、洗濯、カメラのフィルム、古本屋、そして普段とは違う小料理屋へ。
彼の生活の、なんと豊かなことか。仕事の合間に一人でとる昼食、緑豊かな境内でコンビニのサンドイッチを美味しそうに食べる。真摯に働く。人と目が合えば会釈をする。迷子の手を引いてやる。移動するときには好きな音楽を聴く。入眠の儀式のように読書を味わう。木を育て、樹の写真を撮る。
変わり映えしない日常に、もしかしたら見えるかもしれない。でも毎日毎日、確実に「何か」が違っている。
木漏れ日には「木」と「光」が必要で、そして風に揺れる木漏れ日はひとときも同じカタチになることがないのと同じだ。
だらしない後輩やその彼女に振り回されることもある。姪が助けを求めてやって来ることも、その影響で家族と久しぶりの再会をすることもある。〇と×でコミュニケーションを取ることもあれば、普段は公園にいるあの人を街中で見かけることもある。
そして何と言っても特筆すべきなのはラストと、そこに至る流れ。名優どうし、白熱の演技によるぶつかり合いは見入ってしまう。ハンドルを握る役所広司は、感情と時間と人物を、表情だけで語ることの最高位に達している。
鑑賞から時間が経つほどに、自分の中から様々な感情がじわじわと滲み出て来ているから、きっと明日にはまた違う感想が思い浮かぶだろうけど、ひとまずこのへんで。
最後に、パンフレットも良い。読んでいた本や各所のトイレなど、知りたいと思ったことがきちんと載っている。田中泯さん直筆の文章、プロデューサー×川上未映子氏の対談なども興味深い。実直で充実した内容で、平山の仕事ぶりにも通じるものを感じる。

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