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PERFECT DAYSのclementineのネタバレレビュー・内容・結末

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

街中で心惹かれる古めかしい酒場、喫茶店。昔ながらの銭湯。これらは日常的に利用している人がいるから、今でも残っている。映画を観たこの綺麗なシネコンの下は、自転車も停められない。歩いて10分の所には古い食堂街があって、古い酒場があるにも関わらず。劇中、地下鉄浅草駅の出入り口に停めた自転車がいかに異質であったか。
何かを選ぶことは、何かを捨てることであったとしても、捨てたものの存在を見ようとしていたか。古色蒼然としたもののうわべだけを味わい、虚飾に満たされたターミナルを味わい。歩いて10分の古い食堂街とは別に、まだ新しい隣の複合施設の下には、古さを模した新しい酒場がある。街やそこに生きる人の何を捨てたのだろう、何を断ち切ってきたのだろう。何を置いてけぼりにしたのだろう。
観劇後、トイレに向かった。そこは同じように見終わった人で混み始めていた。できすぎた話のようだが、清掃をしている方がおり、トイレの前であの姿勢で中断して待っていた。それは自分にとってすごくショックだった。哀れみを感じているのではなく、こんな身近なことさえ見えていない自分にショックだったのだ。

ヴィム・ヴェンダースの狙いとは違うのかもしれないけど、日本で観るにはあまりに現実的で、色んな箇所でざわざわしてしまった。パターソンは海外の人にこのように見えていたのだろうか。

字幕のいらない海外の映画。この映画の世界は、窓を開けただけで心地よく寝られる都会の夏の夜が存在しないのと同じく存在しないのかもしれない。
好きというのとは違うけど、見て良かった。ヒラヤマのことを数日考えちゃうほどに、役所広司はすごい。
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