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PERFECT DAYSのskのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
4.6
木漏れ日——木々が織りなす光と影の組み合わせがひとつとして同じものは無いように、一見繰り返されるように見える生活も全ての瞬間が過去現在未来通じてただ唯一のものであり(「今度は今度、今は今」)、それゆえにあらゆる日々の生活は尊いもの=perfect daysである。

足るを知る生活とは恐らく、俗に言う「ミニマリズム」や「丁寧な暮らし」のような表層的なものでは決してない。自然のリズムの中で生活し、日中はひたむきに働き、自分が良いと思ったもの・心地良いものを楽しみ、そうした日常の中に細やかな喜びを見出す…そうした意識が日常に埋め込まれて初めて精神的な充足感を育むのだろう。自分には到底成し得ないからこそ、平山の生活がとても羨ましく思えた。

平山がなぜそういった生活をするようになったのか、色々と訳はありそうだが、それを詳らかに明かそうとしないところが良い。人々の絶妙な距離感も心地良い。古き良き日本を醸し出しながらもどこか異国風な画にも終始引き込まれる。

色々な感想が湧き出てくるが、ともあれ非常に豊かな2時間だった。

【追記】
オーストリアの哲学者イリイチの説く思想の一つにConvivialityというものがある。con(共に)とvivial(生き生きとした)を組み合わせた造語であり、人間が他者や自然との間でConvivialな関係、平たく言うと「ちょうど良い」関係を築くために彼は次の5つの観点を指摘している。

1)それは人間から生きる力を奪っていないか(生物学的退化)
2)それは選択の余地をなくして人間を依存させていないか(根源的独占)
3)それは思考停止を招いていないか(計画化の過剰)
4)それは操作する側・される側の分断や二極化を助長していないか(分極化)
5)それはものの価値を過剰なスピードで陳腐化させていないか(廃用化)

自作のトイレ掃除道具、カセットテープ、植物育成用LEDライトとそれに不相応なアナログな部屋、自転車、古本、、、イリイチに言わせると平山の生活は「ちょうど良い」のだろう。
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